Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

「メランコリア」 中島ノブユキ

 毎年、11月の下旬から2月末あたりまで仕事のピークを迎える。その上に忘年会や送別会が重なって体力的にも限界まで手が届きそうになったりするのだが、これはこれでやめられない。

 一週間前の週末も、これ以上遅らせると開催不可能!ということで、金曜日に仕事関係の忘年会を無理やり実施。土曜日は臨時のミーティングに二日酔いで参加した。日曜日の夕方から今度は学生時代のオーケストラサークルのOB仲間で忘年会、翌日から昨日までびっしり仕事、ということで、ちょっと疲れが溜まってしまっている。

 学生時代のオケのOBといっても、ほぼ同時期にいたメンバーで関西在住、というとそんなに多くはない。それでももう20年以上の恒例行事になっていて、毎回日曜日の夕方4時くらいから始めて10人以上は必ず集まる。中途半端な曜日と時間かな、とも思うが、今でもアマチュアで音楽活動をやっている人が多いので、土曜日にはできないのだ。適度に抑制が効くのでいいといえばいいのだが、少し物足りない。でもやはり、気のおけない仲間たちとの集まりは本当に楽しく、毎回翌日からのことを思って一次会で帰ろうと思うのだが、始まってしまうとそんなことは忘れ、誰かの終電時間まで大騒ぎをしてしまう。

 宴会は梅田であったのだが、欲しいCDがあり、その30分ほど前に着くように出かけ、行きつけのマルビル・タワーレコードに向かった。お目当てのCDは、僕のブログを読んでいただいた方からのレコメンド、中島ノブユキメランコリア』 だ。このアルバムの中島氏のピアノと北村聡氏の奏でるバンドネオンの音の世界を、きっと僕も気に入るだろう、ということだった。 

 中島ノブユキ。名前だけは聞き覚えがあるが、音楽を聴いたことはない...と、ふと思い当たって、以前文面でだけ紹介した原田知世のアルバム 『Music & Me』 を引っ張り出し、ライナーノーツを見ると...ありました!Nobuyuki Nakajima の文字。しかも、そのアルバムの中でも大好きな「シンシア」のピアノを弾いていたのだ。これはゲットするしかありません!

 ということで、いつものようにジャズ、クラシック、ロック&ポップスと新譜をざっと見て、その後、お目当てのJAPANコーナーへ。ところが、どこを見ても無い。J-POPのコーナーといえども、かなり広い範囲の日本のアーティストを50音順に並べているので、ここしかないと思い何度も見たがやはり無い。マイナーレーベルで扱っていない、ということがあるのかも知れない。でもここに無いと一体どこで買うの?と時計を見ると宴会の開始10分前。あきらめようか、と歩き始めたときに「New Age」のコーナーが目に付き、急いで目を走らせると...ありました!制限時間いっぱい、ぎりぎりセーフでした!

 

 さて、僕はこのブログでは、少し古くても自分の気分や時代の気分に左右されない愛聴盤しか紹介しない、と心に決めているが、今回は最短での紹介になる。というのは、レコメンドしていただいた方の読みどおり、聴いた日からその基準の中にストーンっと入り込んでしまい、さらに近づくことはあっても離れることはない、と思わせるからだ。

 1曲目のピアノソロの「Overture」でその静謐な世界を予感させる。続く2曲目「忘れかけた面影」では、ワルツのリズムに乗せたピアノとチェロの上を北村氏の弾くバンドネオンの音が優雅に流れ、ノスタルジックなメロディーの中、二日酔いの頭でボーっと聴いていると、そのままヨーロッパの街角の上空まで、時空を駆け超えていくような浮遊感を覚えた。音楽を聴いていると、時としてこの感覚に襲われ、その甘い余韻はいつまでも胸に残る。

5曲目「カリニョーゾ」や表題曲「メランコリア」でも多少なりとも同じような感覚を持った。弱った頭にこれは効く。なんともこの時点で、僕の愛聴盤の仲間入りをしてしまったのだ。

 このアルバムは、明らかにクラシックの素養に裏打ちされた、中島氏の厳然とした美意識の中にある。ピアノとバンドネオンとチェロを基本に、それに足し引きした編成の中で選ばれた楽曲は、それぞれは多様なジャンルの影響を感じさせるものでありながら、自作曲も他者の曲も境界を感じさせず、ひとつの世界に収斂されていく。それはこの編成からくる音の統一感からか、それとも全体を貫く温度感からなのだろうか(明らかに18℃以下です・・・)。

 このアルバムを聴いて再認識したのは、当たり前ながらバンドネオンはリード(Reed)楽器だ、ということだ。「バンドネオン組曲」や「プレリュード ロ短調」などを聴いていると、パイプオルガンやハーモニウムの音にかぶってくる。バッハを思わせるアリアやフーガは、音量コントロールができるという、パイプオルガンにはない表現力を発揮しながら、それでいてその音の中に身を埋めると、オイル拭きの床板の香りのする教会の長いすにひとり座り、目を閉じ聴いている様な錯覚に陥るのだ。

 そして極めつけは終曲の「アダージェット」だ。僕の大好きなマーラーの5番、第4楽章から。これを、これまた大好きな畠山美由紀が声で参加していて、ピアノやバンドネオンと絡みながら、その緩やかで劇的な世界を情感いっぱいに表現している。なんとも素晴らしいこのアルバムを締めくくるのにふさわしい選曲とアレンジだ。

 この時期のまとまった休める時間といえば、やはり年末年始だが、今年は帰省はしない。というか、今年からは逆に帰省される側になったんだな...なんとも年をとった気もするが、今年はゆっくりと自分の時間が持てそうだ。その時はさらにじっくり聴いてみたい、と思わせる、素晴らしい一枚だった。

 

<おまけ>

 原田知世のアルバム 『Music & Me』 と、その中の「シンシア」もぜひどうぞ。ピアノは中島ノブユキ、ギターは伊藤ゴローです。素晴らしい!

 

 

<関連アルバム>

Melancolia (Korea Edition)
music & me

music & me

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