Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

やさしく歌い続けて!

 先日、懐かしいアルバムをデジタルリマスター版のCDで買いなおした。中学生の頃、ネスカフェのCMで流れていたその曲は印象的だった。歌謡曲全盛の時代。テレビから流れてくるのは日本の流行歌ばかりだったので、僕は、その短いながらも心引かれるメロディーと英語で歌う女性ボーカルから、日常とは少し違う新しい音楽の香りを嗅ぎ取っていた。

 ロバータ・フラックの「やさしく歌って/ Killing Me Softly With His Song」。この曲の入った1973年リリースのLPレコード 『Killing Me Softly』 の購入が、大学時代の僕の洋楽志向のスタートだった。それまでも話題の洋楽アルバムはリアルタイムでいくらか買ってはいたが、少し遡って、しかもいわゆるソウル・ミュージックに分類されるものは初めてだった。(それにしても原題は過激だな...)

 今回CDを購入するに当たって、そのジャケットのつくりが気になっていた。LPレコードのジャケットは、ロバータの前にあるグランドピアノが、飛び出す絵本のように蓋側と本体側、それぞれ別々に前に開くようになっている。開いてしまえばそこにはロバータの立ち姿があるが、閉じた状態ではロバータの顔はグランドピアノで半分隠れている状態だ。

 さてCDは、というと...やはりコスト削減。一枚ものの写真だけだった。あれ?顔がちゃんと出てるなぁ、と思ってよく見ると、ロバータの位置が左上に移動していて、全体が見えるようになっている。ちゃんと新しくデザインされているじゃないですか。見えない努力だねぇ。(拍手~!)

 実は、一度だけ彼女がこの歌を歌うのを生で見たことがある。時は1985年。LIVE UNDER THE SKY '85。当日のパンフレットを見ると、8月4日、3:00PM開演。場所は大阪万博公園お祭り広場・特設会場となっている。そうそう、社会人2年目の寮生活の中、同じ寮に住む友人数名と連れ立って芝生席で超リラックスして楽しんだのだ。

 このライブのメンバーはすごかった。オープニングがザ・クルセイダーズ with ラリー・グラハム、続いてロバータ・フラック・グループ、そしてトリがマイルス・デイビス・グループだった。マイルスは当時、アルバム「You're Under Arrest」を発売し、飛ぶ鳥を落とす勢いだったマイケル・ジャクソンの「Human Nature」やシンディー・ローパーの「Time After Time」をカバーして、良くも悪くも、そのポップ路線が大きな話題になっていた。その日は晴天の一日で、会場が夕陽に染まる頃演奏された「Time After Time」での泣きのミュートと観客の歓声は忘れられない。

 ロバータはかつてマイルスと恋人同士だった時期があり、よりを戻すきっかけになるか、などというまことしやかな話も、当時FM放送で耳にした。そんな中での「やさしく歌って」だった。その音楽が流れた瞬間、わーっと心躍らせた記憶があるのだが、どのタイミングでその曲が歌われたのか覚えていない。最後に出演者が全員出てのアンコールがあったと思うが、そこでだったのでは...うーん、わからないなぁ。希望的にはそうなのだが...ただ、その曲でのロバータは、多少フェイクしてあったものの、まさに僕の知っている正真正銘のロバータ・フラックで、本当に素晴らしい歌声だった。

 話を元に戻そう。このアルバムは彼女の第5作目にあたるが、3作目のアルバムまでは泣かず飛ばずだったようだ。成功したのは4作目のダニー・ハサウェイとの共作アルバムを出してからである。そこからのシングルカット「You've Got A Friend」と、その後の過去のアルバムからのシングルカットが次々に大当たりし大逆転が始まる。すなわち、この作品が成功後初めてのアルバムになるわけだ。

 そのあたりの事情もあるのだろう、アルバムはいきなりタイトル曲「やさしく歌って」のロバータのイントロ第一声で始まる。冒頭で聴衆の心をつかむ作戦だ。このアルバムの穏やかさと繊細さ、情感の豊かさを象徴するこの曲は、滑らかでありながらどこか思い切りの良さを持つ彼女の声にぴったりと合っている。そのイメージは崩れることなく「わが心のジェシー」、「少女」、「スザンヌ」を結ぶ。途中、バリエーションはあるものの、ロバータの世界は一定の水位を保ちながら最後まで衰えない。できあがってるなあ、と感じさせる。既にベテランの域だ。

 僕の知っている限りは、その後のロバータ・フラックはこのときの印象のままであり、安定感を持って彼女の世界を堅持してきた。昨年、平井堅との共演で久々に健在であることを確認したが、いつまでも歌い続けて欲しい。そう強く願いたいミュージシャンである。

 

  *** マイルス・デイビスの「Your Under Arrest」もぜひどうぞ! 

 

 

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