Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

初心者チェロ弾き、夢のつづき

 朝起きると本降りの雪。リビングから見下ろせるマンションのパティオも、芝生の部分は既に一面真っ白になっていた。大阪での積雪は3年ぶりとのことだ。

 外では朝から子供たちの声がする。見ると白く滑らかだった雪面に、点々と足跡がつき始めている。時間がたつにつれて子供の数も増えてくる。数ヶ所に雪だるまらしきものができている。まだ幼稚園に上がるか上がらないかの着膨れした子供たちが、両手を広げて降り止まぬ雪を喜んでいる。そのぎこちない姿がほほえましくかわいい。この子達にとっては、初めての雪あそびなのかもしれない。

 調べてみると、3年前の記事に「大阪11年ぶりの積雪」とあった。うちの息子たちが小さいときに、2度雪が積もり親子そろって雪遊びをした記憶があるので、この20年間で4回ということだ。そう考えると貴重な雪だと思う。途中11年間積もらなかった時期があるということは、小さい時に雪あそびを経験していない子供もいることになる。明日もまだ降るようだ。思いっきり遊んで、しっかり思い出に残して欲しいな。

 

 そういうことで、今日は出かけられないと思うと、妙に落着いた気分になり、久々に楽器でも弾きたくなった。しかし、リビングの隅に鎮座するチェロのケースを見て思いなおした。前回あけたときも、とても演奏できる楽器状態ではなかった。一度きっちり整備してもらわないと、と思いながら伸び伸びになっていたのだった...うーん、残念!

 そこで聴く方だけでもと思い立ち、手に取った一枚を今日は紹介しよう。"ベルリンフィル12人のチェリストたち"の 『South American Getaway』 だ。 

 "ベルリンフィル12人のチェリストたち"(以後、'12人'と呼びます)は、文字通りベルリンフィルのチェロセクション全員で構成されるアンサンブルユニットである。したがって、ベルリンフィルのメンバーの変遷に応じて、このアンサンブルのメンバーも変わっていく。僕が学生時代に何度も聴いた、日本での最初のアルバム 『イエスタデイ ~ ベルリンフィル12人のチェリストたち第1集』 (1978年リリース)と、今日紹介のアルバム(2000年リリース)ではメンバーも音も全く違うのだ。

 『South American Getaway』 は、ブラジルが生んだ作曲家、ヴィラ・ロボスのブラジル風バッハ第1番、第5番を軸に、ピアソラの小品やバカラックのタイトル曲など、南米テーマの音楽を選んで詰め込んだ作品集で、'12人'ならではの精緻を極めたアンサンブルとチェロ特有の情熱的な表現が、これらの音楽と相性良く絡み合い、チェロアンサンブルの魅力を堪能させてくれる。

 特に冒頭に入っている3楽章からなる「ブラジル風バッハ第1番」は思い出深い曲だ。この曲は、1978年の最初のアルバムにも入っている曲で、聴きなれたその盤の演奏も捨てがたいが、本盤の方がスピード感あふれた若さを感じる演奏になっていて、今の'12人'の姿を正確に伝えてくれている。(といいながら、今日時点でも、メンバーは変化しているのだろうけどね。)

 

 学生時代の話。初心者から始めたチェロも、2年目で初めての定期演奏会をこなした頃から楽しさがわかり始めた。6月にある年1回の定期演奏会の演目と、秋の学内演奏会の曲を練習するだけでは満足いかなくなってくる。その頃から「こんな曲が弾きたい」という「欲」が出てくるのだ。僕の場合は次の3つだった。

サンサーンスの「白鳥」をばっちり弾きたい。

② バッハの無伴奏チェロ組曲を、せめて第1番だけでも弾きこなしたい。 

③ ヴィラ・ロボスの「ブラジル風バッハ第1番」(チェロの8重奏曲)を一度やってみたい。

これは、同世代のチェロ初心者なら、似たような夢を持ったんじゃないかと思う。

 この③番目の夢が実現したのが、2年の後期試験の頃だった。その数ヶ月前、僕と同じ夢を持つチェロの先輩で大学6年目(!)のTさんが、近所の炉ばた焼き屋で、ほおばった豚バラの串焼きを薩摩「白波」のお湯割りで流し込みながら、スコアから自ら書き写した8つのパート譜を脇に「これを今年度中にやりたいのだ。ドン!(← テーブルをたたく音)」と打ち明けてくれた。まだ2年目の僕に8番パートを弾かせてくれるという。ただ、その時点でうちの大学には、その演奏に耐えられるメンバーは僕を入れて4人しかいなかった。Tさんのアイデアは、2,3,5,8番パートをうちで、1,4,6,7番パートを近くのK大のメンバーにお願いする、というものだった。その頃K大ではいつ卒業してもおかしくない大学8年目や6年目の猛者チェリストがいて、Tさんは豚足を片手に、「1番パートを演奏できるのは彼らしかいない。だから今年がラストチャンスなのだー!」と口角(白波の)泡を飛ばした。

 その後、事はうまく運び、何度かうちの大学で全体練習をした後、当時地元のプロオケK響のコンマスだったK先生のレッスンを受けられるチャンスがめぐってきた。メンバーの卒業の関係もあり、そのレッスンが最後の演奏の場になった。そこでは、ブラジル風バッハ第1番の第1楽章と第2楽章を細切れに分割しながら、K先生のご指導を仰いだ。そして最後に通し演奏。第1楽章の変拍子も苦労しながら乗り切り、第2楽章の夢のような美しいメロディーも、低音を弾いているこちらもうっとりするくらい素晴らしかった。観客はいなくても、メンバー全員楽しんだ演奏だったと思う。

 演奏の細かい部分は案外忘れているものだ。録音も録らなかったのでいい思い出だけが残る。恐らく、月とすっぽん(以下)なのだろうが、'12人'の演奏を聴くと、いつも自分も弾いているような「夢のつづき」の気分にさせてもらえる。

 ちなみに、①の「白鳥」は、二十?年前、結婚式の披露宴で最後の挨拶代わりに、うちの奥さんのピアノ伴奏で演奏、というちょっとはずかしい披露のしかたで実現。②のバッハは部分的に学園祭の名曲喫茶で演奏したりしたが、まだまだ実現したとはいいきれない。よし、チェロをレストアした暁には、バッハの無伴奏を目標にがんばるかな。

 

<追記>

 「イエスタデイ ~ ベルリンフィル12人のチェリストたち第1集(1978)」のブラジル風バッハは、TELDECの「CLASSICS MEETS POPS」で聴けます。これは、この第1集と第2集のおいしいとこ取りをした再編集盤です。ぜひどうぞ。

 

 

<関連アルバム>

 

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