雨が降っている。台風が近づいてはいるのだが、まだ穏やかな降り方だ。昨晩は土曜日だというのに深夜まで仕事でばたばたして、ようやくの休日。この調子だと今日は出かけられそうもない。ゆったりと本を読み、音楽を聴くには最高のコンディションだ。
「雨」を題材にした音楽はたくさんあるが、日本の音楽で、と考えると・・・ん~、やっぱり僕の場合はこれかなと、久しぶりにこの一枚を手に取る。荒井由実のデビューアルバム 『ひこうき雲』 だ。
この中の「雨の街を」が、僕のユーミン・ベストソングである。ピアノを弾くユーミンのバックは、キャラメルママ(後のティンパンアレー)。林立夫のバスドラの音に細野晴臣のベースが重なり、後年結婚する松任谷正隆のエレピがうっすら入ってくる。この日本屈指のバッキングを従え、19歳のユーミンは静かに、少しぎこちなく歌っている。まだ若さが前面に出てはいるが、そのノンビブラートで平坦な声は明らかに初期からの特徴だ。
☆ Link: 雨の街を / 荒井由実
14歳のときに購入し、18歳で田舎を出るまで、明け方まで起きていると、夜が明け始める頃、時々聴きたくなった。多感な時期の一側面を思い出させる曲だが、実際これを聴いた後、ふらふらと靄のかかった早朝、当てもなく歩き始めてしまったこともある。夜明け前の青みがかった風景。まだ灯りの消え残った田舎道を、水気をたっぷり含んで目覚めようとしている樹木や草花に触れながら歩いた。指先に感じた自然の息遣いを今も思い出すことができる。
このアルバムを購入したきっかけはこうだ。当時14歳の僕は、ギター譜の付いた音楽雑誌を時々手に入れ、毎晩ギターの練習に精を出していた。その雑誌に数ヶ月前に発売されたユーミンのデビューアルバムの紹介とインタビュー記事が載っていた。その中で彼女は、最近どういう曲を聴いていますか?という問いに、「プロコル・ハルムとかよく聴きます。」と応えていた。プロコル・ハルムの「青い影」は、大好きな曲だったので、なかなか渋いなぁ、と思っていた。そんな中、ラジオでこのアルバムのタイトル曲「ひこうき雲」が流れた。・・・うーん、こ、これって、「青い影」やん、ってのが最初の印象。でも、まあ影響を受けている、といえばその範疇ではある。恐るべし、荒井由実!この印象が強烈で、とにかく買って聴いてみようと思い、しばらくして手に入れた。
当時はまだまだ知る人ぞ知る、という存在だったが、彼女の身辺がにわかに賑やかになったのは、ハイファイセットの歌う「卒業写真」がヒットしてからだ。その曲を作者自身が歌うということで一部で話題になっていた3枚目のアルバム 『コバルト・アワー』 は予約して発売と同時に購入した記憶がある。爆発的に売れ始めたのはその半年後、「あの日に帰りたい」が秋吉久美子主演のドラマ「家庭の秘密」の主題歌になり、大ヒットしたことがきっかけだ。しかし僕自身は、この後あまり聴かなくなった。再び定期的にアルバムを入手するようになったのは、今世紀に入ってからである。
そんなことを書いていると、数年前にある番組でaikoとユーミンが「ひこうき雲」をデュエットしていたことを思い出した。確か、うちの奥さんが録っておいてくれたDVDがあったような、と思って探してみると・・・ありました。2005年のクリスマスの夜、フジテレビであった特別番組、松任谷由実のオールナイトニッポンTV。深夜放送形式で、たくさんのゲストが入れ替わり立ち代り、楽しいトークを披露していた。
aikoはやっぱり大阪の女の子やなぁ、という普通じゃない微妙に笑えるトークのあと、思い出の曲として「ひこうき雲」が紹介されていた。aikoの親戚のお兄ちゃんの話。まさにこの曲の内容そのものの悲しい話だった。その後のこの曲のデュエット、ひょっとしてユーミン、泣きながら歌ってる?と思ったが、単に声が出ていなかっただけかもしれない。ユーミンのシンプルなピアノで二人で歌うこの曲は、「青い影」には全く聞こえない、やはりユーミンの曲だった。このとき aiko 30歳、ユーミン52歳。
「ひこうき雲」もそうだが、初期の頃の初々しさが前面に出た「雨の街を」を聴きながら思ったことがある。この年齢になって、またその頃の曲がピッタリきているのではないだろうかということ。イケイケドンドンの頃のユーミンにこの曲は似合っただろうか。今だからこそ、その頃の音楽を再び味わい、歌いなおすことができているのではないか、と。
先日、57歳のユーミンの歌う姿を見たが、5年前よりはるかに声が出ている。充実した音楽生活の賜物だろう。新しいアルバムを聴けば、その世界は極まっている。職人芸の域だ。恐るべし松任谷由実!あと20年はいけそうだ。あやかりたいものです。
*** プロコルハルムの「青い影」もぜひどうぞ
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