Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

マッコイ・タイナーのピアノが連れてきたもの

 どの季節が好き? こんな質問をかつてはよくしたし、された気がする。なぜかこの質問をするときは、相手は恐らくこう答えるだろうと予測していることが多かった。4つの季節は、人の印象と結び付けやすく、その答えを聞いて、「やっぱり?」とか、「意外!」とか、言い合っていたと思う。

 僕の場合、十数年前までは迷わず「夏!」と答えていたはずだ。夏の開放感が大好きだったし、けっこう暑さにも強かった。海の近くで育ったこともあり、きらきらした夏のさわやかなイメージは、すぐに海の記憶と結びつき、学校や仕事からの解放につながるリラックスした感覚に包まれたからだろう。

 しかし、今その質問をされると、う~ん、と迷いに迷って、「秋かな」と答えるのだろう。消去法で答えるしかないのだ。夏のさわやかさは、遠い記憶のように消えかかっている。最近の夏はとにかく不愉快になるくらい暑い。丸一日の不快指数(昔こういうのありました)を、ここ大阪で刻々測って累計すると、恐らく世界有数の不快CITYであることが判明するのではないか、と思えるほどだ。

 春もいいのだが、花粉症に悩まされる。冬は寒くて、冬眠したくなる。そういう思考パターンをたどって「秋かな」に行き着く。極めて消極的な選択なのだ。

 とはいえ、今日の日差しは既に夏そのもの。ただ不快さはそれほどなく、気持ちのいい暑さだった。こんな調子でいってくれればいいんだけどね。

 

 さて、先週のブログで、コルトレーンの 『バラード』 を紹介したが、その中の「 You don’t know what love is」を伴奏するマッコイ・タイナーのピアノを聴きながら、頭の中に、この曲をもっと艶やかに演奏する彼のサウンドの記憶がよみがえってきた。80年代が終わろうとしているころ手にした、一枚のアルバムの冒頭に入っていたこの曲。心震わせながら聴いた演奏は、彼の弾く軽やかなピアノの音無しでは語れない。跳ねるように躍動する間奏フレーズ...あー、たまらない。そのアルバムとは、ジョージ・ベンソンの『テンダリー』だ。

 当時僕は、ジャズの世界に急速に接近していて、毎月購読していたスイング・ジャーナル誌で、ジョージ・ベンソンのニューアルバムの記事を見た。「あのジョージ・ベンソンがジャズ?」と一気に興味を持った僕は、レコードショップで第一次接近遭遇を決行。一聴にして、購入を決めたのだった。

 ジョージ・ベンソンといえば、僕の中ではアルバム 『ブリージン』 と 『ギブ・ミー・ザ・ナイト』 のイメージしかなかった。1976年、ワーナーへの移籍第一弾アルバム 『ブリージン』 は大ヒットしたのだが、そこでギタリスト、ジョージ・ベンソンが歌ったのは一曲。レオン・ラッセルの「This Masquerade」のみである。しかし、この曲を歌うジョージ・ベンソンが評判を呼び、以後、どちらかといえば歌の方がメインになっていく。僕も、その後いくらか聴いてはいたのだが、「ブリージン」の頃のクロスオーバーなイメージから、歌と共にどんどんポップ路線に踏み込んでいて、ジャズのイメージなんて完全に払拭されており、ほとんど興味の対象から外れていた。

 そんな中でアルバム『Tendaly』を聴き、僕は初めて彼の「ジャズ」に接した気がした。かといって、いわゆる「ガチガチの正統派ジャズ」というわけでもないのだが、その演奏にはジャズスピリッツが溢れ返っている。

 プロデュースはブリージンのときと同様トミー・リピューマだが、演奏メンバーを見れば、その本気度も伝わってくる、というものだ。ピアノにマッコイ・タイナー、ベースにロン・カーター、ドラムスにアル・フォスターという、当時のジャズ界の大御所たちが名を連ね、ストリングスやホーンアレンジは、名手マーティー・ペイチが担当している。これでジャズにならないわけがない。ジョージ・ベンソン自身が奏でるギターの音も冴え、見事なジャズ・アルバムになっている。今思えば、彼の現在につながる方向性を示したアルバムだった、と言えるのではないだろうか。

 ここでのジョージ・ベンソンは、スタンダード曲8曲のうち4曲を歌い、残り4曲ではジャズ・ギタリストとしての実力を余すところなく伝えている。この歌う4曲が、ため息が出るほどいいのだ。

 1曲目「You don’t know what love is」の素晴らしさは既に書いたが、その余韻がまだ尾を引いている中、3曲目「Stardust」はバイオリンのソロと弦楽の前奏で始まる。ストリングスの前奏が途切れ、ジョージ・ベンソンマッコイ・タイナーのピアノ伴奏だけでワン・フレーズを歌い上げる。そして、例の「シャボン玉ホリデー」のメロディー(あ~、歳がばれるな~)からベース、ドラムスも加わり、ストリングスがバックを盛り立てる。間奏部分では彼のギターも活躍し、なんともロマンティックにまとめられている。

 5曲目はレノン/マッカートニーの「Here, there and everywhere」。この曲ももう立派にスタンダードだ。6曲目にはゴードン・ジェンキンスの「This is all I ask」。どちらも、考え抜かれたアレンジの上で、ジョージ・ベンソンは伸び伸びと歌い、そして弾く。なんと気持ちよく、伸びやかな響きなのだろう。やはりマッコイ・タイナーのピアノの粒立ちと豊かな響きは、全体の印象を開放的にしていて、このアルバムになくてはならない要素となっている。

 圧巻だった冒頭の「You don’t know what love is」は、先週のコルトレーンの演奏と同様に、やはりこの曲のベストパフォーマンスの一つだ、と言い切ろう。コルトレーンジョージ・ベンソン。同じピアニストが同じ曲の演奏の鍵を握っていながら、全く違うイメージの、違う演奏に仕上がっている。そしてその中で、どちらにおいても、「さすがはマッコイ・タイナー」と思わせてくれるのだ。

 このアルバムを聴いて、僕はマッコイ・タイナーのピアノが大好きになり、その後もチェックしてきた。最近は新しいアルバムの話は聞かないが、73歳になるはずの彼は、今日もどこかで素晴らしい演奏を聴かせてくれているのだろうか...

 

 

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