ここ数日、冷房なしで過ごせる日が続いている。関西では、肌寒いというほどでもないが、台風が熱気までも引き連れていってくれたかのように、気温も湿度も快適に保たれている。今日も朝からさわやかな風を肌に感じながら、いい気分で目覚めることができた。ずっとこんな感じだったらいいんだけどね。
春先から、週2日、深夜のコンビニでアルバイトを始めた次男が、生意気にも9月に友達と南欧に行くと唐突に言い始め(そのためやったんかい!)、パスポート申請をするということで、ちょうど切れていた僕たちのパスポートの更新申請も一緒にしてもらっていた。この休みはそれを受け取りに行こうと金曜日から意気込んでいたのだが、調べてみると土曜日はパスポートセンターはお休み。受け取れるのは日曜日ということで、肩透かしを食らった。なんでー?、ってよくよく考えてみると合理的なシステムなんですね。土曜日だけ休みという人よりも、日曜日だけ休みの人の方が圧倒的に多いはずなので。なるほど・・・と納得しながらも今日はお出かけ気分を削がれてしまった。仕方ない、明日、ぶり返す暑さの中、行くことにしようかな。
さて、こういうさわやかな日には、懐かしいさわやかな音楽を。そうそう、最近は何故かAOR流行りで、往年のAORの名アルバムが続々再発されている。AORはAdult Oriented Rock(大人向けのロック)の略だが、当時はそういう呼ばれ方が定着していたわけではなかった。後になって様々な分類が成された、というのが本当のところなのだろうが、その頃(1980年台初頭)僕は単純に「NHK-FMのクロスオーバー・イレブンで流れそうな、クロスオーバーな歌もの」という感じでとらえていた。そのため、いわゆるフュージョンに分類されるようなものも同列に見ていたとも言える。
その中から、今日のような夏のさわやかな夕方にでも流せば、一気にあの時代に気分を引き戻される一枚といえば、やはりこれ! ボビー・コールドウェルの 『イブニング・スキャンダル(邦題)』 を選ぶだろう。(原題は 『Bobby Caldwell』 。)
僕の場合"AOR"と聞くと、まずは条件反射的にこの中の一曲「What You Won't Do For Love」が頭の中に流れ出すくらい、この曲は当時の記憶への導線となっているのだ。
学生時代カセットテープで持っていたこのアルバムのこの曲が聴きたくて、ボビー・コールドウェルのベスト盤をCDで買って聴いていたのだが、不満は募るばかりだった。かつてオリジナル盤を聴いていたミュージシャンのベスト盤を買うと必ず陥る、お定まりの後悔だ。
一般的に、あるアーティストのおいしいところだけを詰め込んだベスト盤はカタログとしては申しぶんない。しかし、オリジナル盤が持っていた曲の順番から来る微妙な感情の動きや、楽曲ごとの間の取り方、単体としては弱い曲でもアルバム全体の中での意味づけが存在することなど、その制作者の意図であろうと無かろうと、リスナーの中で出来上がっているアルバムとしての印象を細切れにしてしまう。結局は、それに耐えられない場合、オリジナル盤も購入する、ということになるのだ。
このアルバムの場合で言うと、1曲目はやはり、ドラムスとストリングスの軽快な前奏で始まる 「Special to me」によって、力の抜けた都会的でダンサブルな世界を見せつけるところから始めなければならない。そして、このアルバムの持つ”音”のユニークさのポイントでもある"カリンバ(親指ピアノ)"の前奏で始まる2曲目「My Flame」のゆるいグルーブに受け継ぐ必要があるのだ。
6曲目にある、くだんの「What You Won't Do For Love」の前には、打鍵時の金属成分を強調した"生ピアノ"の音がきりりと印象的な穏やかな楽曲「Come To Me」が来るべきだし、その曲の終了と同時に、間髪を入れず、フェンダー・ローズのコードから入り、ホーンのユニゾンの前奏が鳴り始めなければならないのだ。そして次の「Kalimba Song」に受け渡す。あ~。書いていると面倒くさい話のようだが、全てはこれが無ければ「違和感」が生まれるというものばかりである。
「What You Won't Do For Love」は、黄金の循環コード(と僕は呼んでいる)とその反復で出来上がった楽曲である。ずっと気にしてきたのだが、多少コードの置換えはあるものの、当時の僕の好きな曲にはこの循環コードを反復するものが結構あり、これはひょっとして特に日本人の琴線に触れる形なのではないかと思ってきた。今でも時々ひょこっとこの流れが現れる曲がでてくる位だから、同じように思う制作者もいるのだろう。さらには、この循環と反復はいろいろ利用されやすく、サンプリングされ加工されて、ヒップホップやダンスミュージックなどにも多用されている。そういう意味でこの曲は、発売当時生まれてもいなかったDJたちの定番の音ネタにもなっているのだ。
ということで、ベスト盤に満足せず、オリジナル盤を手に入れたのは昨年の話。たまたま見かけたボビーのニューアルバム 『The Consummate Caldwell』 を入手する際に、同時に手に入れた。今、ベスト盤の発売の時期を調べると1992年となっている。なんと僕は20年近く、不満を持ち続けたことになる。ベスト盤を買ったのなんて、この間のこと、という感じなんだけど、「この間」が20年前! あ~、歳は取りたくないものです。
この話には落ちがある。このとき一緒に買った 『The Cosummate Caldwell』 が、これまたオリジナル盤ではなかったって話。なんと、これもベスト盤だったのだ!
ボビーは、米国では2ndアルバム以降、所属レコード会社の倒産等でプロモーションもままならず、ぱっとしなかった。ところが日本では人気が衰えることはなかったのだから面白い。本国でぱっとしない中、4枚のアルバムをもってシンガーとしての活動を休止する。しかし、やはり実力があったのですね。彼は今度はコンポーザーとしてAORを支える存在となるのだ。様々な人へ提供した楽曲が評判を呼ぶ中、シンガーとして再起するきっかけとなったのは、ボズ・スキャッグスに贈った「Heart of Mine」の大ヒットにより、その機を逃さず、この曲や他の提供楽曲を自ら歌ったアルバム 『Heart of Mine』 をリリースしたことだった。
さらに91年リリースの6作目で、一曲だけ入れたジャズのスタンダードナンバーが評判を呼び、今度はジャズシンガーとしての道を歩き始める。ビッグバンドをバックにフランク・シナトラ張りに朗々とジャズを歌う彼は、もう立派にジャズ・シンガーだ。『The Cosummate Caldwell』 は、このジャズ・シンガーとして発売した3枚のアルバムからのベスト盤だったのだ。
ここまでベスト盤についていろいろ書いてきたが、それは全てオリジナル盤を知っていればこそだ。幸いなことに、このジャズ・アルバムのオリジナル盤を全く知らない僕にとっては、ベスト盤こそが最初の一枚になっている。さて、これを逆にたどるべきなのかどうか・・・うーん。
<余談ですが>
「What You Won't Do For Love」が明るいときに聴きたくなるのに対して、暗くなると聴きたくなるのは、ブログを始めて2日目に紹介したグローバー・ワシントン・Jr./ ビル・ウィザースの「Just the Two of Us」です。ほぼ同時期の曲。これも黄金の循環コードが使用されている、僕の大・大・大好きな曲です。
まあ、いい時代でしたね~。
<おまけ>
ヒップホップで「What You Won't Do For Love」が元ネタの曲として、僕自身が初めて確認した一枚、Guruの『Jazz Matazz Volume2』です。この中の19曲目、「Something In The Past」。フレディー・ハバード(tp)との掛け合いがいい味出してます。
<関連アルバム>
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