Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

さよならの言葉

 「さよならの言葉」という曲をご存知だろうか。1977年の第13回ヤマハポピュラーソングコンテストでグランプリを獲った曲である。この曲を作り歌ったのは小野香代子。彼女はその後すぐに海外に留学してしまい、レコードを出すことも、プロになることも無かった。当時アマチュアミュージシャンにとってプロへの登竜門として絶大だった通称「ポプコン」でグランプリを獲得しながら、レコードも出さないというのは異例のことだった。(ちなみに、第10回が中島みゆきの「時代」、第14回が世良正則&ツイストの「あんたのバラード」である。)

 その頃、高校の2年目を迎えたばかりの僕は、ポプコンの優秀曲を紹介するラジオ番組 「コッキーポップ」で、この曲を初めて聴いた。さらにはちょうどその時期、ラジオと並行してこの番組はテレビ番組にもなり、そこで紹介された映像でも、実際に小野香代子がギターを弾きながら歌う「さよならの言葉」を見ている。3拍子の穏やかな楽曲で、特に大きく盛り上がるわけでもないのだが、彼女の繊細なギターとやさしい声が、その曲とマッチして、じんわりと胸に迫り、僕に強い印象を残した。

 そして一年後。この曲は唐突に八神純子の2枚目のシングル曲として登場する。さらにその直後に発売した彼女のファーストアルバム 『思い出は美しすぎて』 のラストも飾っている。

  ★ Album:思い出は美しすぎて (1978) / 八神純子

 「さよならの言葉」は、僕自身このアルバムの中でも好きな曲ではあるのだが、当初どうもしっくり来なかった。オリジナルの印象が強く残っていたので、似てはいるのだが、少し張りのありすぎる彼女の声が馴染まなかったのだろう。あるいは、その数年前から自作曲で何度もポプコンでの入賞を果たしてきた彼女が、敢えてシングル盤で他人の曲を歌うということ自体に違和感があったのかもしれない。

 当時彼女は、テレビの「コッキーポップ」にマスコット的存在として時々出ていたが、ちょうどこのアルバムが出た頃、司会の大石吾郎とのやり取りの中、「これからはなるだけ自作曲を歌っていこうと思う」というような趣旨の発言が彼女の口から飛び出し、びっくりした記憶がある。本当は他人の曲である「さよならの言葉」なんて歌いたくなかった、という悔しさにも似た思いが言外に滲み出ていて、いつもはかわいいだけの印象しかなかった彼女の、気の強い一面を垣間見たようで、少しキュンとしたものだ。

 このアルバムは、彼女のアマチュア時代の香りを随所に漂わせていて、その後につながる気持ちよく伸びやかな声の特質を、奥ゆかしくも存分に表した初々しい一枚で、僕も発売と同時に手に入れ、かなり早い段階でCDでも買いなおし愛聴していた。

 今回、この逸話を思いながらこのアルバムを聴きなおしていて発見したことがある。「さよならの言葉」の一曲前に、「もう忘れましょう」という、当時の彼女らしい楽曲が入っている。この2番の歌詞の中に「“さよならの言葉”だけが心に痛いだけ」とあるのだ。これは、ひょっとしたら、何かの抗えない力によって、「さよならの言葉」を歌わざるをえなかった彼女が、その時の気持ちを、この歌詞の中に忍ばせたのではないか、と思ってしまった。ん~、考えすぎかもしれないが、タイトルは「もう忘れましょう」ですか...もし、そうだったとしたら、これはなかなかしたたかだ。

 そういう背景も関係してか、案の定、デビューシングル「思い出は美しすぎて」が12万枚売れたのに対し、恐らく余り力の入らなかった 「さよならの言葉」は2万枚しか売れず大失敗となって、彼女は一転、歌手としての引退の危機に直面した。もう田舎(名古屋)に帰ろうか、と思っていた矢先、ギリギリの状況に陥った彼女は、原宿の歩道橋で不意に曲想を得て、3枚目のシングル「みずいろの雨」が生まれたという。

 この曲が大ヒットし、ヤマハのエレクトリックグランド CP-80の前に座って歌い、時にサンバホイッスルを吹く彼女の印象は定着した。そして、次々にヒット曲を生む存在へと上っていったのである。

 昨年、NHKの音楽番組「SONGS」で、久々にアメリカから帰国していた八神純子を取上げていた。その中で彼女は、当時のエピソードとして、この「水色の雨」が生まれた経緯を語っていた。やはり彼女にとって、その前作である「さよならの言葉」は、いわく因縁つきの曲だったのである。しかし、いやー、すごい!その声は昔のままだ。代表曲を数曲、今の編曲で演奏したが、あの気持ちよく伸びる張りのある声を、この年齢になっても維持し続けていることに、ただただ敬服してしまった。

 

 さて、冒頭に話を戻そう。もう20年以上前から、最初に紹介した小野香代子の歌う「さよならの言葉」をもう一度聴きたいと思ってきたが、ずっと叶わなかった。しかし7年ほど前に、ネット上でこの曲の入ったコンピレーションアルバムを発見し、ついに手に入れたのだ。一聴して、あの当時の印象がよみがえってきた。やはりこの曲には、多少荒削りであろうと、作者自身の声と演奏が最適だ、ということがわかった。このアルバムは、あまり全曲を通して聴くことはできないのだが、時に取り出してピンポイントで聴き、ちょっと幸せな気分になっている。

  ★ Album:ポプコン・ガールズ・コレクション (2003) / V.A.

 ところで先日、なんと、このポプコンでグランプリを獲ったときの、歌う小野香代子の映像をYouTubeで発見した。感動的である。しかし、これまでも何度か書いたけど...すごい時代になったものだ。今や、ただただ10年も20年も聴きたくて、あるいは観たくて恋焦がれる、なんてことにはならないんだろうな。なんだかちょっと、寂しい気もするけど...

  ☆ Music:さよならの言葉(ライブ) / 小野香代子

 

<追記>

 「さよならの言葉」は、亡くなった母親を偲んで書いた曲だという情報がありました。そうだったのか、という感じです。それを思って歌詞を聞けば、それまで、少し納得していなかった部分が見えてきました。小野さんの演奏にあった、悲しさを抱えた繊細な表現も納得です。

 

 

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