Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

2011年、今年の一枚は?

 いよいよ大晦日。この一年は本当に様々なことがあった。通常なら一年の終わりの数日間は、その年の総括のようなことが色々行われるのだが、今年はとてもそういう風にならない。一旦終わって総括、とはいかないのだ。様々なことが今なお続いている。今も立ち向かっている人たちがいる。

 僕もこの年末年始は大きな移動はせず、静かに自宅で過ごすことにした。子供が小さい頃は、多少混んでいようと、一旦リセットして何とか田舎に帰ったものだが、ここのところ年末年始は動かないことが多い。帰省される側になったこともあるし、子供たちは子供たちで自由な時間を過ごすようになったことも理由のひとつだ。

 ということで自宅でのお正月を迎えるべく、昨日買い物に出た際、お正月用と銘打ってまたまたCDをどっさり買ってきてしまった。まだ聴ききれてないアルバムが山積みなのに、どないすんねん!って天の声が降ってきそうだけど、いやいやお正月ですからね~。聴きますよー!

 その中に一点、BD&CDセットのライブ盤(Import)がある。英国出身のシンガーソングライター、アデルの 『Live at The Royal Albert Hall』 だ。もちろんお正月用(?)なのでまだ視ていないのだが、視なくてもわかる。きっと素晴らしいライブ盤に違いない。楽しみはお正月まで取っておくことにして、今日紹介のメインは、このライブの主、アデルが今年1月にリリースしたアルバム 『21』 だ。

 一年の最後に「今年の一枚は」となると、さてどのジャンルからにしようと色々迷うが、今年はこの一枚で決まりだ。セールス面でも大成功していて、わざわざ紹介するのも躊躇してしまう程だが...仕方がない。いいものはいいのだ。

 何ら奇をてらうこともなく、最先端の流行を取り入れるでもなく、かつて脈々と流れていた王道のソウルフルなポップスの源流にスルッと乗っかったような、どこか懐かしさすら感じる一枚。僕たちがかつて心躍らせながら聴いた種類の音楽が、生き生きと息づき芽吹いている。その独特のスモーキー・ボイスには、既にベテランの風格すら漂う。とてもリリース時点で22歳とは思えない、完成された素晴らしさだ。これが彼女のデビュー2作目なんて...とても信じられない。

 とはいえ僕は、2008年のデビュー・アルバム 『19』 も、たまたま見た彼女の2枚目のシングル曲、「Changing Pavements」のプロモーションビデオでその音楽と映像に魅了されて購入し、何度も聴いていた。

 2009年のグラミー賞では、なんと最優秀新人賞を受賞したが、その時点では2作目でここまで飛躍するなどと全く思っていなかった、というのが本当のところだ。確かに歌は上手かったが、どこかで飛躍できにくい泥臭さを感じていたので、まあまあこんな感じでもうしばらくは残るのかな、などという消極的なイメージで思っていたのだ。

 アルバム 『21』 は、いい意味でそんな予測を大きく裏切り大化けした。この時代に、ヒップホップの影響など全く受けず、出身の英国だけでなく、なんと米国でも13週連続No.1を獲得するということがどんなにすごいことかは理解できる。ある意味非常にオーソドックスなポップ・ミュージック。そこでは素晴らしい声と歌唱力がどれほど重要なのか、またそれを備えたこの種の音楽がどれほど強く、どれほど魅力的なのかを再認識させてくれる。しかしそれだけではない。前作 『19』 ではもちろん素晴らしい曲はあったものの、アルバム全体としては多少楽曲の弱さがあった。それがこのアルバムでの楽曲の素晴らしさといったら、半端ではない。きっちりと締まり、かつ人の心を捉える要素がちりばめられている。生楽器主体の演奏や音作りも、ある意味シンプルで素晴らしい。

 アルバムはいきなり、R&B路線の「Rolling in the Deep」で一発かましてくれる。あ~あ、これは売れちゃいますね~。アメリカでもいっちゃいそうですね~、と思わされた。確かにこの路線はこのアルバムの色のひとつだ。カントリー色も少し含んだ、アメリカンなルーツミュージックの匂い。それは米国で受け入れられる条件のひとつだとも思うが、彼女自身その要素の受容体を既に持っていたのだろう。第1作目以降、米国で出会ったプロデューサーたちがそれを見事に引き出し、その要素は彼女自身の血肉になって楽曲に表れているのだ。

 しかし、このアルバムで特に素晴らしいのはバラードである、と言い切ろう。しかも素晴らしい曲想の上に乗ったバラードには甘さが無い。その声と歌唱力で力強く歌う。3曲目の「Turning tables」、4曲目の「Don't you remember」、7曲目の「Take it all」と挙げればキリが無い。

そしてぜひ10曲目、The Cure 「Lovesong」のカバーも聴いて欲しい。もうそれは、このアルバムの一部となって納まっているのだ。

 締めの一曲は「Someone like you」。これを今年最後の曲としよう。

 どこを切っても捨て曲無し。前々回のブログで、最近そんなアルバムに出会わない、なんて書いたけど。いや~、撤回すべきかも知れませんね~。今年はこのアルバムがあったのでした。

 ところで気になるのは来年早々のグラミー賞だ。果たして彼女は獲るのだろうか。獲って欲しいと思う反面、そんなに早く頂点に立ってもいいのか、という気持ちも湧いてくる。少しずつ少しずつ高まっていく音楽を聴かせてもらいながら大きくなっていく。現在23歳の彼女には、そういう道もあったのだろうが、運命が、実力がそれをさせてくれないようだ。

 この後の音楽の潮流に間違いなく影響を与える一枚といっても過言では無いだろう。どこまで行くのだろう。末恐ろしいミュージシャンが現れたものである。

 

 さて、そろそろ波乱に満ちた2011年が終わる。この一年は、普通の一年ではなかった。日本がこんな危機的状況に陥るなんて一年前に誰が想像しただろう。しかし、これからはどんどん良くなっていく。そう信じて、がんばっていくしかない。立ち止まるわけには行かないのだ。

 そういう中での音楽の役割はやはり大きかった。僕自身が何かを発信したわけでは無いが、様々な状況の中で音楽のもつ意味も少し判った気がする。そんな中にあって、僕にいったい何ができるのだろう。そんなことを思わせてくれた一年だった。

 

 お読みいただいた皆様。一年間本当にありがとうございました。まだまだ紹介し足りない音楽もたくさんありますが、いつものように気の向くままに綴りつつ、僕自身が気になった音楽を少しずつご紹介させていただければと思っています。来年もよろしくお願いします。

 皆様にとって2012年が素晴らしい一年でありますように。

 よいお年を。

 

 

<関連アルバム&BD>

21(UK盤)

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