Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

永遠のメロディー

 ここのところ送別会やら何やらで、飲んで帰る機会が増えている。昨日もお気に入りのお店で少人数での同僚の送別会を催した。今日は朝から歯の治療を予約していたこともあり、飲む方はちょっとセーブ気味だったが、食べる方はいつものように最高においしくて大満足。ということで幸せな気分で眠りについたのだが...朝起きてみるとどんより雨模様。しかも雨なのに何故か花粉も多そうだし。歯医者・雨ふり・花粉症と、どよ~んと三つ巴の土曜日を迎えてしまった。

 こんな日はせめて音楽くらいは思いっきりスカッとパワフルなのを聴きたいな、なんて思いながらボリュームを少し大きめに設定し、久々にひっぱり出してきたチャカ・カーンの1981年のアルバム『What cha' gonna do for me (恋のハプニング)』を聴く。う~ん、これ、やっぱりすごいねー。

 このアルバムはファンク・バンド「ルーファス」のボーカルだったチャカ・カーンのソロ3作目だが、何がすごいって、彼女の迫力ある歌いっぷりはもちろんのこと、プロデューサーでありアレンジャーでもあるアリフ・マーディンの敏腕ぶりがとにかくすごい。魅力的な選曲に加え、それまでファンク&ソウルのイメージが定着していたチャカ・カーンと二人三脚で新たな境地に踏み込んでいて、クロスオーバーな魅力を放つ、よりコンテンポラリーな音作りにも挑戦しているのだ。もちろんホーンセクションを効果的に使うパワフルなサウンドも健在だが、よりポップな世界、ジャズの世界でのチャカ・カーンの可能性を垣間見せる仕掛けを作り、その音楽に最適なミュージシャンをアレンジして彼女の歌の世界をグッと押し拡げている。

 このアルバムの6曲目に、本作最大の目玉であるジャズの名曲が入っている。タイトルは「And the melody still lingers on」。これは、1940年代に名トランペッター、ディジー・ガレスピーが作曲し、チャーリー・パーカーの名演で一気にスタンダード化した「A Night in Tunisia(チュニジアの夜)」で、チャカ・カーン自身が詩をつけてこのタイトルになったものだ。かつて何度も聴いたあまりにも有名な演奏だが、今日改めて聴いてやっぱりすごいと思った。何よりもこの曲にかけるチャカとアリフの思い入れが随所に現れているのだ。

 前奏はエレピとシンセベースで始まり、先ずはその上を、作曲者のディジー・ガレスピー自身が、ミュートトランペットで静かにソロを吹く。この曲では他の楽曲で多用しているホーンサウンドは一切入ってこない。変わって大活躍するのが当時時代の音と化していたアナログ・シンセサイザーだ。今聴いても決して古さを感じさせないその音は、チャカ・カーンの声と対等に、あるいはホーンセクションに置き換わって存在感を示し、あまりにもカッコいいコンテンポラリーなサウンドを作り上げている。

 演奏はムーグのシンセベースとプロフェット5をデビッド・フォスターが担当し、冒頭、チャカのゆったりとしたメロディー直後のシンセベースソロを華麗に響かせる。コントロール性を生かしたショルダーキーボード・Clavitarとオーバーハイム・ベルを操るのはハービー・ハンコックだ。それにしてもワンコーラスが終わった後のClavitarのソロはもう感涙もの。今聴いてもかっこよすぎる演奏だ。他にもその楽器の特性を知り尽くしたすごい顔ぶれなのだが、さらにすごい仕掛けの瞬間が演奏の絶頂で突如訪れる。それは、後半に入るソロブレークの所なのだが、その部分に伝説的な故チャーリー・パーカーのアルトサックス・ソロ・ブレイクをはめ込み、ハービー・ハンコックのシンセソロと競演させるという趣向だ。(そういえば、かつて年末の紅白で平井堅坂本九の夢の競演が話題になりましたっけ...関係ないけど...)

 ジャズファンの心もくすぐり、コンテンポラリーな世界も満たしながら、ソウルフルな世界は外さない。終盤は再びディジー・ガレスピーのオープン・トランペットのソロがチャカ・カーンの歌声とかけ合い、興奮の余韻を残したまま演奏は終わる。それにしても、このメンバーとこの演出。コンテンポラリーでありながら、ジャズの世界への敬意を十分に感じさせる構成、そしてチャカ・カーンらしさとの相乗効果も高めて...う~ん、アリフ・マーディン。やはりただ者ではない。

 チャカ・カーン自身が書いた、ジャズへの敬意と愛情をたっぷり詰め込んだ歌詞からくるこの曲の邦題は「永遠のメロディー」だ。そう思って聴くとこの曲のメロディーは普通じゃない。”チュニジア”が表す異国の匂いを感じさせてくれるエキゾティックな旋律は唯一無二。それでいて、様々な演奏に展開できる自由度も併せ持つ。まさにその時代時代に合わせて、永遠に生き続けるメロディーなのだろう。

 

 さて、ここまで来れば、僕のかつてときめいた”チュニジアの夜”も少し紹介しておきたいが...やっぱりアレですね。ジャズらしい演奏で、僕が一番気になったものも入れましょうか...う~ん、アート・ブレーキーもいいんだけど...ジャズではやっぱりこれかな。ソニー・ロリンズのアルバム『A Night at the "Village vanguard"』の 冒頭の一曲、「A Night of Tunisia (Afternoon take)」 だ。

 これはビレッジバンガードでのライブ演奏だが、ピアノレスのトリオなので、ソニー・ロリンズは吹きまくる、吹きまくる。ドラムソロ以外休み無しだ。絶頂期のバリバリの演奏でぐいぐいこちらに迫ってくる。ピート・ラ・ロカのドラムスに負う部分も大きいのかもしれないが、とにかくピアノレスにありがちな音の薄さは全く無い。聴き始めた頃は、その固めのゴリっとしたパワフルな感じが妙に心地よく、元気をもらったものだ。

 と、ここまで来ると、あの演奏も紹介しないわけには行かないだろう。まあ、ジャズっちゃあ、ジャズ。ジャズ・コーラス。これも初めて聴いたときに、とてもときめいた演奏。マンハッタン・トランスファーのアルバム『ヴォーカリーズ』から「Another Night in Tunisia」、ア・カペラでの演奏だ。

 ボビー・マクファーリンをゲストに迎え、その器楽的歌唱の上に、うんとエキゾチックな雰囲気で4人のコーラスが乗る。面白いのは途中入るこちらもゲスト、ジョン・ヘンドリクスのソロブレーク。これはチャカ・カーンのものと同様、チャーリー・パーカーのソロブレークをスキャットで表現したものになっている。しかし、確かに"Another"だ。ここまで来ると、世界が変わってくる。

 作曲者のディジー・ガレスピーは、あの時代のジャズ演奏家としてはめずらしく、ドラッグも過度の飲酒もせず、宗教的な背景から節制につとめ長生きした。1993年に75歳で亡くなったが、それゆえにこれほど伝説的なイメージの人なのに、え?と思うような新しいアルバムに演奏が残されていたりする。「ガレスピーズ・パウチズ」という医学用語まで生んだ大きく膨らむほっぺ、ベルが上向きに折れ曲がった独特の形状のトランペット、ちょっとおしゃれにも感じる黒縁のメガネや帽子など、ジャズ草創期の超個性的な印象を残すジャズ・ジャイアントだった。何故か日本ではそれほど人気があったとは言えないが、亡くなるまで影響を与え続けた人だった。

 そんな彼の残した「永遠のメロディー」は、これからもずっと、多くの人に音楽的な刺激や喜びを与え続けるのだろう。それって、とても幸せなことだと思いませんか?

 

 

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