Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

フラメンコ・フラメンコ

 先週の日曜日、ある友人の推奨映画である、スペインの名匠カルロス・サウラ監督の「フラメンコ・フラメンコ」を観に行った。フラメンコといえば「フラメンコギターに合わせ、ドレスを着た女の人がカスタネットを鳴らし踊る」という、恐ろしく画一的なイメージしかなかったのだが、何故か無性に「観に行きたい」という思いに駆られた。上映している映画館を探してみると、なんと関西では神戸と大阪の2館のみ。幸いなことに、梅田スカイビル・タワーイーストにあるガーデンシネマで上映中、ということで躊躇なく出かけられた。

 それにしても素晴らしい「芸術作品」だった。大都会の大きなホールと思しき場所に舞台をしつらえ、全21幕の踊りと音楽のセッションを「光と影」を駆使して撮影している。恐らく「フラメンコ」のあらゆるバリエーションを含んでいるだろう一大絵巻であり、予備知識もほとんどなく、ただただ入れ替わり立ち替わり繰り広げられるセッションに目と耳を奪われ続けた。

 そこから立ち上る香りは、僕の全く予想していないものだった。それは、スペイン南部・アンダルシア地方に伝わるこの芸能の裏にある、土のにおいであり、血のにおいだ。そこには、恋人、家族、民族の間に溢れ返る愛と情念があり、生と死がある。

 その歌は心の声であり魂の叫びだ。独特の節回しを最初に聴いたとき、まるでコーランのような印象があった。調べてみると、その由来はスペイン・ジプシーにあるようだが、確かにイスラムの流れも一部汲んでいるらしい。しかし何といってもフラメンコの特徴はリズムにあるのだろう。フラメンコギターは音階やコードを弾くためというよりも、むしろリズムを形作るためにある。演奏するときに発する様々な音は全て重要な要素なのだ。

 出てくる打楽器は、カホンという木の箱状の楽器のみ。そこに足を広げて座り、前面をたたいて音を出す。さらに重要なのは、手拍子と足拍子。全ての人がリズムを共有することで、一体感が生まれ、感情までも共有できるのだ。映画の中でカスタネットは最後まで出てこなかったが、そのことが、この音楽の人間くささをより感じさせてくれたようにも思う。身体から直接発する音こそが、その演出にはふさわしいのだと納得した。

 そうした音楽の中で繰り広げられる踊りは、もちろん素晴らしいの一言。特に最初に現れたフラメンコ界のカリスマダンサー、サラ・バラスは別格だった。その舞踊は息を呑む美しさであり、目を奪われ我を忘れ、踊り終わった瞬間、思わず拍手をしそうになった。

 同様に、伝統的なフラメンコギターに、ジャズやクラシックギターの要素を大胆に取り入れ、その奏法を革新的に発展させたパコ・デ・ルシアも別格であり、その素晴らしい演奏はオーラを放っている。彼の偉大さは、周囲の若い共演者たちの尊敬の念のこもったまなざしから十分に感じられ、新しい世代にリアルタイムに引き継がれる「生きた芸能」であることを実感させてくれた。

 ここで展開された全21幕は、人の誕生から晩年、そして再誕までを描いたものだったということは、後になって知ったことだ。そんなことは知らなくても十分に楽しめ、満足満足!......とは言うものの、そういう観点で、もう一度観てみたい。そんなことも思わせてくれる作品だった。

 

 さて、今日は、映画の中でもオーラを放っていたパコ・デ・ルシアが、かつてフュージョンの世界で、やはりオーラを放ちまくっていた僕の愛聴盤を紹介しよう。学生時代に友人の部屋で何度も聴き、そのあまりにかっこよかった演奏を再び聴きたくて随分前にCDで購入した、1981年のアルバム、スーパー・ギター・トリオ(アル・ディ・メオラジョン・マクラフリンパコ・デ・ルシア)ライブ! 『フライデイ・ナイト・イン・サンフランシスコ』 だ。

 とにかくこのアルバム、一曲目の「Mediterranean Sundance / Rio Ancho」で決まりだ。

 アル・ディ・メオラの曲「地中海の舞踏」の中にパコ・デ・ルシアの楽曲を埋め込み、演奏も右チャンネルからアル・ディ・メオラ、左チャンネルからパコ・デ・ルシアの音が鳴る。二人の対決であり融和でもある掛け合いを、息を呑んで聴く。あー、なんて...すごいん...だろう。終盤に向けて気持ちはどんどん高まっていき、ライブを観ている観客と同じ気分になる。演奏の終了と共に上がる歓声は、自分の中の歓声とも重なるのだ。何度聴いても興奮する演奏だ。

 

 そういえば、この映画とは全く関係ないのだが、先月、楽器屋さんでたまたま手にしたヤマハのサイレントギター(クラシックタイプ)を衝動買いしてしまった。ギターは何本かあるのだが、全てスチール弦のもので、ナイロン弦のギターはかつて所有したことがなかった。いつか購入して、ボサノバでも練習してみようかな、なんて思い、時々楽器屋さんをのぞいていたのだ。

 その日も触手の伸びるギターはなかったのだが、初めて手にしたサイレントギターを弾きながら、まあ最初の練習用のギターならこれもいいかも、なんて思った瞬間、なんだか欲しくて欲しくてたまらなくなり、エイヤ!っと買ってしまったってわけ。おまけに爪の伸ばし方も左右で変えてみたりして...時々ポロポロやっているのだが...うーん、さすがにフラメンコの早弾きは、ちょっと手が届きそうにない。弦もハード・テンションじゃなくてノーマルだし...なんて言い訳をしつつ、フラメンコの誘惑を振り払い、今日ものんびりボサノバギターの本を眺めるのであった。

サイレントギター

 

 

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