Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

yanokami は終わらない

 ここのところ、昨年末に発売された、yanokamiのセカンドアルバムにして最終作、『遠くは近い』 をよく聴く。そしてそのたびに、この続きが聴けなくなってしまったこと、この音楽の発展形が永遠に消失してしまったことを、あまりにも残念に思うのだ。

 天才は天才を呼ぶ。矢野顕子の音楽を追っていると、いつも実感として感じることなのだが、例に漏れずyanokamiもそうだった。矢野顕子レイ・ハラカミのユニット "yanokami"の原型は、その少し前から彼女のアルバムにも出始めていたが、僕がレイ・ハラカミの音楽を意識したのは、2005年に発売された彼の4枚目のアルバム 『lust』 だった。そのCDの帯に書かれていたこの一文に興味を引かれたのだ。「世界遺産に決定。文句無し。矢野顕子(談)」

 テクノやエレクトロニカに分類されるレイ・ハラカミの音楽は独特だった。感じ入ったのはその「清廉」さ。丸いエレクトロニカ。処理の仕方によっては、もっと尖った感じになっても良さそうなのに、広がる感触は滑らかで心地よく、それでいてパキっとした折り目正しさも感じる音楽に、僕は魅了された。メロディーや和声、リズムもその一因なのだろうが、サウンドとその処理の果たす役割が大きいことは明白だ。純音やその組み合わせに近いシンプルなサウンドをメインに据え、ベースやバスドラの弾かれ感は軽快で、リズムを刻むサウンドは棘を抜かれている。そこにディレイを駆使して浮遊感漂う処理が成され、個々に主張することは決してない音の群れが、全体で波のように迫っては引く。

 初期の頃からYMOのツアーにも参加し、ニューヨークに暮らしながらこの世界の最先端を肌で感じてきた矢野顕子にして「世界遺産」なんて言葉が出るくらい、頑固なまでに独創的な、唯一無二の音楽世界だったのだ。

 

 この二人のユニット結成は刺激的だった。2007年のファーストアルバム 『yanokami』 を初めて聴いたときは、ちょっとした違和感もあったのだが、その声と音楽の組み合わせはすぐに馴染み、動かしがたい世界になっていった。 

 アルバムの一曲目は矢野顕子の曲、「気球にのって」で、そこからも彼らの本気度がわかる。この曲は矢野顕子の1976年のデビューアルバム 『JAPANESE GIRL』 の一曲目であり、新しい世界に向かう彼女の思いを表したもの、と捉え聴いたものだ。しかし今考えれば、「気球にのって」の英語タイトルは”Sayonara”。デビューアルバムの冒頭でいきなり「さよなら」って...予感でもあったのだろうか。

 そういえばこのアルバムには、前述のレイ・ハラカミのアルバム 『lust』 でも取上げていた細野晴臣の曲「終りの季節」も入っている。最初聴いたとき、「終りの季節」もいいけど、7曲目に入っている「La La Means I Love You」のような、ちょっとハッピーなカバーソングも、いっぱい入れて欲しいな、なんて思ったんだけど...

 この見事なまでに独創的な世界を築いた音楽は、その後英語版の 『yanokamick』 も出て、ライブパフォーマンスでは、世界も見据えた活動に発展していたが、新作はなかなか現れなかった。

 そして昨年、yanokamiがセカンドアルバムのレコーディングをしている、という知らせに喜んでいた矢先の7月。突然、さらっとした感じで、レイ・ハラカミの訃報がネット上に流れた。7月27日レイ・ハラカミこと、原神玲氏、脳出血のために死去。享年40歳。

 時々、現役のミュージシャンの訃報に出くわすことはあるが、それが次回作を待ち望んでいるような場合のショックは本当に大きい。僕もしばらくはその事が心のどこかに引っかかったまま、日々を過ごした。

 そして昨年末、訃報から4ヶ月、yanokamiの新作「遠くは近い」はリリースされた。皮肉にもそれは、デビューアルバムの時に思った、ハッピーなカバーソングのたくさん入った素敵なアルバムだった。バリエーションも豊富で、荒井由実オフコースからデビッド・シルビアン、ローリングストーンズのカバーまであり、これまで以上に楽しめるアルバムで、本来なら、さらにその先を期待してしまう内容だったのだ。 

 不思議だったのは、そのプロモーション。元気溢れるプロモーション形態だったが、そのどこにも追悼ムードなどなく、あれってガセネタ?と思えるほどだった。何故なんだろうと、少し不思議だった。

 そして昨日、矢野顕子情報からたどり着いた、この5月3日、4日に開催された彼女がオーガナイザーを勤める”TOKYO M.A.P.S”のホームページに「本日のトリはyanokami」とあるのを発見して驚いた。そこには、あたかもyanokamiは存在しているかのごとく扱われていたのだ。別の情報では、その中で彼女は「一年前くらいまでは、ここにもう一人いたの。行方不明になっちゃった。今でも見つからないの」と言っていたという。彼女の残念な気持ちはひしひしと伝わる。でも恐らく、そのパフォーマンスはそのことさえも忘れさせるほど、忘我の境地だったのだろう。

 彼女の中で、yanokamiは終わっていない。僕もなお、そこに期待してしまうのだけど...

 

 

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