Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

柚子胡椒でどて焼きを

 今日は何故か柚子胡椒のお話。

 いまやポピュラーな香辛料になってしまって、どこに行っても手に入るようになった柚子胡椒だが、ほんの十年ほど前まではここ大阪ではなかなか手に入らない貴重品だった。我が家では柚子胡椒の消費スピードが半端なく速いので、福岡に帰省したときには次の帰省までの期間を考えながら、この九州ではポピュラーな香辛料をしっかりと買い込んだり、時には田舎からの荷物のついでに送ってもらったりしたものだ。そんな貴重品も、次第に全国レベルで知られるようになって、ついにはS&Bからチューブ入りの「柚子こしょう」(「柚子ごしょう」が正しいと思うんだけど・・・)が出るに至っては、帰省土産筆頭の座を明け渡すことになったのでした。うれしいような、さびしいような...

 さてこの柚子胡椒、青唐辛子と青柚子の果皮を刻んで、塩を入れて練りつぶし少し熟成させただけの香辛料なんだけど、とてもそれだけとは思えない、独特の柚子の香りを運んでくれる。今年の夏の帰省で、お土産に赤い柚子胡椒(赤唐辛子と黄柚子の果皮でつくったもの)も買ってみたんだけど、やっぱり青いのが本物ですね。風味が違う気がします。

 ところでこの柚子胡椒、学生時代、福岡にいる時はそんなに頻繁に口にしていたわけじゃない。そりゃそうだよね。外食と言っても学生向けの定食屋さんで量にものを言わせる定食専門だったし、飲みに行ってもそんな上品なものを食べるわけじゃなくて、炉辺焼き屋で焼酎、キャベツ、焼き鳥、豚ばら、豚足ってパターンだったし。部屋で食べるのはもっぱら朝食くらいで、柚子胡椒の出番なんてまず無い。要するに、微妙な風味を云々するような生活では無かったってわけだ。ははは...(泣

 ところが、これだけは柚子胡椒が無ければダメって食べ物があった。それは当時、福岡天神の警固公園横にあった屋台「万作」の「どて焼き」(牛スジ肉の味噌煮込み)だ。この屋台には、その中央にどて焼きだけが入っている巨大な四角いおでん鍋がしつらえてあって、常時大量のどて焼きが仕込まれている。メニューもどて焼きをはじめ、どてラーメンやどて野菜炒めのように、何かにどて焼きを合わせて調理したようなものがメインだった。

 近くにはNHKの福岡放送局があって、僕たちは年に一度行われる「青少年音楽祭」で福岡にある5大学のオーケストラの団員で構成した混成オーケストラの演奏会を行っていたのだが、その練習場所がNHKの中にあり、その時期になると頻繁に大きなチェロを抱えて天神まで出かけていた。恐らくはその時、誰かに連れて行ってもらったのだろう。オーケストラの仲間とよく訪れては、屋台の裏手に楽器を立てかけ、焼酎とどて焼きでささやかな交流をしたものだ。

 このどて焼きに、絶対欠かせないのが柚子胡椒だった。少し深めの皿につがれたどて焼きの皿の淵に、小さじ半分くらいの柚子胡椒をのせ、混ぜながら食べる。芋焼酎のお湯割とともに口に入る柚子胡椒のピリッと効いたどて焼きは、とにかく僕にとっては、福岡の屋台の味だった。

 社会人になって大阪に来て、柚子胡椒とは縁の無い生活をしていたのだが、結婚してしばらくたった頃、突如として、あの「万作」のどて焼きが食べたい、と思った。就職した後も、福岡に行けば万作には時々顔を出していたのだが、結婚してからは帰省しても天神には行かなくなっていたのだ。

 食べたい思いは募り、たまたま手元には帰省時に調達していた柚子胡椒があった。よし、こうなればつくるしかない。そう思った僕は、うちの奥さんの不安げな顔をよそに、アルミの大きな寸胴鍋を購入し、あの「万作」のどて焼きを思い浮かべながら、大量の牛スジ肉、こんにゃく、八丁味噌、にんにく、万能ねぎを買い込み、レシピも何も無い中で、適当につくり始めた。

 まずはスジ肉を小さく切る。2キロ程度あっただろうか、硬いスジ肉を、ひたすら切っていった。それを寸胴鍋で一度煮る。脂分がしっかり浮いてきたのだが、あまりギトギトしない方がいいかと、一度お湯を入れ替える。再度煮立ってくると、今度はこんにゃくを1cm四方、5mmくらいの厚さで大量に切り、にんにくを薄くスライス、それを入れてまたしばらく煮る。さらに八町味噌を大量に入れる。少しだけ普通の味噌も混ぜたかもしれない。日本酒もたっぷり入れ、みりんも適切に入れる。なんとなくこんなものかなと、それでひたすら煮込んでみた。

 いいにおいがしてくる。うん、あのどて焼きのにおいだ。数時間煮込むと、スジ肉もしっかり柔らかくなっている。出来上がると深めの皿につぎ分け、どさっとねぎの小口切りをのせ、たっぷりの柚子胡椒で食べるのだ。なんと、初めてのトライで、大成功。かなり近い味になったのだった。このどて焼き、みんなに大好評で、しばらくは何かで人が集まるときに、時々つくっていた。

 それ以来、柚子胡椒の方も、鍋のときには欠かせない香辛料になり、最近ではポークステーキや鳥料理、お刺身などにも大活躍するようになってきている。そうそう、塩ラーメンにちょっと乗せるだけで、柚子塩ラーメン。これもなかなかいい。

 そういえば最近どて焼きも作ってない。あの「万作」ももう無いんだろな。福岡の屋台も、自治体の規制もあって、相当減っていると聞く。もう新しい店は作れないし、今続いている屋台も一代限りらしい。あの福岡の夜の独特の雰囲気が薄れていくのは、少し寂しい気もするけど、これも時代の流れなのかな。今の子供たちを見ていると、僕たちの時代とお酒の飲み方も、そこに求めるものも全然違うような気がするし。とにかく大きく変化を続けてきた福岡の街では、屋台の存在はある世代以上の人たちのノスタルジーでしかないのかもしれない。上手くすれば、素晴らしい観光資源になると思うんだけどね。

 

 さて、今日の音楽は、ちょうどこのどて焼きを初めてつくってみた時期、サウンドトラックの世界でどんどんメジャーな存在になってきていて、一度まとまったものを聴いてみたいと思い入手。今も時々聴きながら、決して古くならないその音楽に癒される一枚。日向敏文の 『Premiere ベスト・コレクション』 にしよう。

  ★ Album:PREMIERE (1991) / 日向敏文

 たまたま先週末、古いテレビドラマを色々映し出している番組を、とても懐かしく観ていた。そうそう、「東京ラブストーリー」とか「愛という名のもとに」とかが、むちゃくちゃ流行った時代だったよね、と思いながらそのあたりのドラマの音楽を担当していた日向敏文のこの一枚を思い出したのだ。

 ニュー・エイジ・ミュージックで括れるのかどうかはわからないが、独特のエスニック感覚を取り入れた端正な音楽からは、静かな情熱や物語性を感じることができ、その素直な音楽から沁みだすものが、聴くものの心にすっと入ってきて癒してくれる。このアルバムは、それほどメジャーとはいえなかったアルバムデビュー以来の7枚のオリジナル盤の集大成で、ドラマのサウンドトラックで注目を浴びた時期に全曲リミックスしなおし再構築したベスト盤であり、当時、眠りに就く前に何度も聴いたアルバムだ。

 今聴いても、どの曲も素晴らしくて、とても選べないのだけど、あえて3曲に絞ってみた。先ずは冒頭の「Woman in the Isle」で、ゆったりとアルバムは始まる。この、何ともいえないおしゃれな空気は、少しエスニックなイメージを含みながらも、全編を通じて流れている。

  ☆ Music:Woman in the Isle / Toshifumi Hinata

 続いては、どこかヨーロッパの香り漂う「Little Rascal」を挙げてみる。途中、街角の雑踏の音に重なってピアノのソロ演奏が入ってくるが、彼はピアノ弾きで、このアルバムにはピアノソロの曲もたくさん入っている。この曲のように一編の中に物語性を詰め込んだ音楽が、彼の音楽の特徴でもある。

 最後は、やはり彼を先ずはここまで引き上げた、テレビドラマ「東京ラブストーリー」の音楽から、「Good Evening, Heartache」にしよう。もちろん小田和正の主題歌はバカ売れしたが、ドラマはやはり日向敏文サウンドトラックがあってこそだっただろう。バブル華やかなりし頃の都会の持つ、寂しさの側面をしっかりと音楽の中に埋め込んでいる。特にこの盤の「フルオーケストラ・バージョン」は、このアルバムでしか聴けない、素晴らしいトラックだ。

  ☆ Music:Good Evening, Heartache (Orch.version) / Toshifumi Hinata

 当時は、この人は職人だなーと思った。人の琴線に触れる音楽をよくわかっている。技術的にも音楽的にも素晴らしい。このアルバムを購入した頃には、超人気の音楽家に成るべくして成っていた。さて、今はどうしてるんだろう。新しい世代がどんどん成長してきて、サウンドトラックの世界も随分変わってきたはずだ。でも今彼の音楽を聴いても、決して時代に流されない不変の要素がたくさんあることに気付く。きっとまだまだ素晴らしい音楽を生み出し続けているんだろうな。また色々聴いてみようかな...久しぶりに日向敏文を聴きながら、久しぶりの「万作」風どて焼きで焼酎のお湯割。いいかもしれません。

 

 

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