Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

ポールのスタンダードジャズ

 また一年が終わろうとしている。「今年も大変な一年だった」と毎年言っている気もするけど、それにしても厳しい年だった。そのドタバタの高揚をクールダウンするには、この休みでは少し短いかな。でもまたすぐにテイクオフをするわけで、あまりボケボケになってしまうと後が大変。年末年始に向け押し寄せる大寒波を横目に、適切にクールダウンを、ってところかな。

 さて、恒例の今年の一枚。色々考えたんだけど、今年はあの大御所のこのアルバムにしよう。2月にリリースされた時には、少し驚きながらも、じっくり聴いて納得の一枚だった、ポール・マッカートニー初のスタンダード・アルバム 『Kisses On The Bottom』 だ。

 近年はクラシックの世界でも自作の組曲を発表して、そのマルチっぷりをますます発揮している御大も、今年は70歳。ビートルズ結成50周年という節目の記念すべき年に、なんとジャズで古いスタンダードナンバーに挑戦するっていうのは、実に彼らしい。

 とはいえ、そこはさすがポール・マッカートニー。ただただ歌って終わり、なんてことがあるはずは無い。プロデュースにトミー・リピューマを招き、今や人気・実力ともにジャズ界を引っ張るダイアナ・クラールと彼女のバンドがバックアップしている。雰囲気を作り上げるギターにはジョン・ピザレリ、バッキー・ピザレリ親子を招き、エリック・クラプトンやスティービー・ワンダーも参加して、キラリと光る演奏を見せている。オーケストラはロンドン交響楽団、オケ・アレンジもジョニー・マンデルなどの大御所たち。う~ん、なんて贅沢なんだろう。

 そこから生み出されるのは実にしっとりとした古き良き時代の正統派スタンダードナンバーであり、「これ、だ~れだ」などと誰彼なく質問したくなるような、ポール色の変化を感じさせる味のある一枚に仕上がっている。

 ただ、選曲から思うことは、決してジャズを意識して選んでいるわけではないな、ということ。ポールが子供の頃、父親が弾くピアノで覚えた古いスタンダードナンバーを選んでいるということで、結構地味な曲が多く実に渋い。よくできていればいると感じるほど、選曲面で少し変化に乏しい感じがあるかもしれない。そういう意味では、ポール自身の感傷も少し入ったアルバムであり、非常にパーソナルな印象も漂う。

 さて、ここからがポールのポールたる所以だが、その中に2曲一段と光る曲がある。8曲目の「My Valentine」と14曲目(通常盤では最後の曲)「Only Your Hearts」だ。

 今回、しっかりインナーブックを見ていてわかったんだけど、この光る2曲は、このアルバムに忍ばせていた、彼自身の新曲だった。僕がこのアルバムからセレクトするとすれば、まずはこの2曲になるんだけど、それがどちらも彼の楽曲。「My Valentine」は、エリック・クラプトンジョン・ピザレリのギターが渋く響き、オーケストラにいい感じで溶け込んで、燻し銀の味を出している。(映像ではクラプトンに変わり、イーグルスジョー・ウォルシュがメインギターを弾いています。)そして「Only Your Hearts」では、一聴してスティービー・ワンダーだとわかるハーモニカが、その楽曲のベースに流れる感傷的な気分を盛り立てる。う~ん、さすがですね。聴かせます。まあ、既に彼の曲は十分スタンダードなんだけどね。

 ところでこのアルバムには通常盤とデラックス盤があって、デラックス盤には2曲追加されている。1曲目はポールがWings時代、最後のアルバムで最後を飾った彼自身の曲「Baby's Request」の再録だ。これが実にオールドソングっぽくていい味を出している。そして2曲目が僕の大好きな「My One and Only Love」。この曲が入っているだけで、絶対デラックス盤。こちらを選んでほしいな。

 とっても贅沢で、なんだかほっとするアルバム。僕はこのアルバムを聴いて、ポールがオリンピックで歌うだろうと確信したし、今年を締めくくるにはいいんじゃないかな。オリンピックでも「ヘイ・ジュード」、がんばってたしね。

 

 ということで、こういう四方山話に今年も一年間お付き合いいただきまして、ありがとうございました。今年は強烈に寒い「締め」の日となりましたが、先ずは音楽ででも暖かく体を包んで、一年を振り返り、新しい年に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。すこ~しペースは落ちますが、まだまだ続けていきたいと思っています。来年も、よろしくお願いいたします。

 それでは皆様、風邪などひかれませんよう。良いお年を。

 

 

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