Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

In Your Own Sweet Way

 昨年の12月5日、ジャズピアニストであり作曲家でもあったデイブ・ブルーベックの訃報が流れた。92歳になる前日の訃報だった。モダンジャズの草創期に活躍した人であり、その時代のジャズ・ミュージシャンとしては長命だったと言えるだろう。イメージは無いかもしれないが、伝説的なチャーリー・パーカーと同い年、バド・パウエルの4つ上。マイルス・デイビスジョン・コルトレーンの6つ上にあたるのだ。

 ただ、東海岸での熱気溢れるジャズの世界に直接関わったわけではなく、少し洗練されアカデミックな雰囲気すらあったウェスト・コーストでの白人ジャズだったため、主流のイメージにはならなかったのかもしれない。

 

 デイブ・ブルーベック・カルテットと言えば、やはり思い浮かべるのは「テイク・ファイブ」だろうか。しかしこの曲は彼の曲ではない。彼のカルテットの出世作ではあったが、曲を作ったのはアルト・サックスを吹くポール・デスモンドである。

 僕にとって、デイブ・ブルーベックと聞いてすぐに頭に浮かぶ曲は、「In Your Own Sweet Way」だ。大好きな曲であり、今やスタンダードになっているこの曲によってこそ、デイブ・ブルーベックモダンジャズの主流に大きく影響を与えたのではないかと思ってしまう。初出は1956年。デイブ・ブルーベック・カルテットが「テイク・ファイブ」でビッグヒットを飛ばす3年前の話だ。

 社会人になってジャズに目覚め始めた頃、レコードショップには50年代後半から60年代初頭に録音された輸入盤CDが日本盤の半額ほどで並び始めていた。僕はそんな中からちょっと気になるCDを、わけもわからずポツポツと買っては聴いていた。それらのアルバムの中にちりばめられていたこの曲は、様々な人気ミュージシャンの心を動かす曲だったようだ。

 有りそうでなかなか無い、ちょっと凝ったつくりのコード進行・転調がこの曲の魅力であり、そこにこそジャズらしい、少し知的なエッセンスを感じることができる。その魅力に最初に気付いたのはマイルス・デイビスだったのかもしれない。彼がアルバム 『Workin’』 でこの曲を取上げたのが初出と同じ1956年。恐らくライブか何かでこの曲を聴き、興味を持ったのではないだろうか。その後数年間で怒涛のように現れるこの曲のカバーの先駆けだった。ミュート・トランペットで軽快に吹くマイルスのメロディー。やがてその上にコルトレーンのテナー・サックスがおおいかぶさり、メロディーを引き継ぐ。あの有名なマラソン・セッションの一角をしっかりと担う名演である。

 マイルス・デイビスが取上げたことで一気に東海岸に拡がったこの曲は、それから数年で多くのミュージシャンに次々と演奏された。お気に入りをいくつか挙げるとすれば、まずはビル・エヴァンスかな。彼はアルバム 『How My Heart Sings!』 でこの曲を取上げ、その後も愛奏曲として、様々なライブやソロ作品で演奏を披露している。その曲の作りから言っても、いかにもビルの好きそうな曲、という感じだろうか。

 しっとりと聴きたいのであればウェス・モンゴメリー、『The Incredible Jazz Guitar』 からの演奏もおすすめだ。トミー・フラナガンのピアノに渋く支えられて、たっぷり奏でるジャズ・ギターの音色と演奏は、明らかに彼のものである。

 他にも、ドン・フリーマン、フィル・ウッズケニー・ドリューキース・ジャレットなどなど、この曲を取上げたミュージシャンはたくさんいるが、一方で歌詞付のバージョンもある。ジャズ・シンガーカーメン・マクレエとの演奏のために、デイブ・ブルーベックの奥様であるアイオラ・ブルーベックが歌詞をつけたものだ。その歌詞は自分勝手な男に振り回される女性の心境を表した歌詞なのだが、さてブルーベック夫人、音楽を通して何かを訴えたかったのかな?

 「In Your Own Sweet Way」は、「自分自身の好きなやり方で」とでも訳せばいいのだろうか。恐らく、デイブ・ブルーベックにとってこの曲は、自らの好みのままに自由に作り上げた曲であり、演奏にも自由なアプローチを望んでいたのだろう。

 そういう意味では、晩年の演奏には、若い頃の印象とは全く違う、もっと自由で、恐らく彼自身が思うままに演奏した「In Your Own Sweet Way」が残されている。2001年のドイツ・ブルグハウゼン・ジャズ・フェスティバルでの演奏だ。既に80歳を越えた演奏とは思えない、そこから立ち上る充実の精神性は、まさにこの曲の真骨頂とも言えるだろう。

 

 デイブ・ブルーベックはもともとクラシックの世界でピアノと作曲を学んだ人でもあり、シェーンベルクダリウス・ミヨーに師事したこともあるというのだから驚きだが、晩年はクラシックの楽曲も発表しながら、ジャズの演奏も楽しんでいた。僕も数年前、イエール・チェロ合奏団の 『Cello, Celli!』 という、クラシックアルバムを入手したときにその事実を知ったのだが、同時に彼がまだまだ元気に様々な音楽に囲まれて活動を続けていることも知ったのだった。

 このアルバムは、アメリカのイエール大学音楽部に所属する20人の若き精鋭によるチェロ・アンサンブル作品であり、何故かバッハとブルーベックの作品集になっている。その音楽に流れる共通性に着目したのだろうか。

 そこから垣間見たものは、「自分自身の好きなやり方で」 自らの思いのままに人生を謳歌し、音楽のジャンルを越えて若い世代にも直接関わり続けている彼の姿だった。デイブ・ブルーベックは、まさに「In His Own Sweet Way」を貫いたのである。

 その冒頭を飾る、ブルーベックの小品「エレジー」は、ノルウェイの女流アーティストでありジャーナリストでもあった友人のRandi Hultinに捧げた曲である。生前、ブルーベックがオスロを訪ねた際、彼女に贈るために作り携えた曲を、結局聴かれないままに亡くなってしまった彼女に向けて、改めて書いた哀悼曲だという。オスロに渡り、彼女の遺族の前で初めて演奏したこの曲を、最晩年、彼はジャズの演奏会でも時に演奏していたようだ。

 今日はこの曲と合わせて、イエール・チェロ合奏団のバッハを聴きながら、デイブ・ブルーベックに、そして明日でちょうど丸2年を迎える東日本大震災で亡くなられた多くの方々の上に、思いを馳せることにしよう。

 

 

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