Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

休眠打破

 窓の外に穏やかに漂う空気、ふんわり包み込むやわらかい日差しは紛れもなく春のそれである。例年以上に寒い冬だと少し前まで思っていたのに、ニュースでは、この週末にも桜が満開だと連呼している。観測史上2番目の早さだそうだが、どうもピンとこない。紹介されているのは東京の桜だ。

 ここ大阪は東京より暖かかったはずなのに、桜が咲いているのを未だ見ていない。今朝たまたま外出時に、近所の桜の名所の前を通ったが、まだまだだった。おそらく一週間以上差があるのだろう。

 桜が咲くメカニズムは複雑である。ニュースでも「休眠打破」という言葉を何度も聞いた。知っているようで、詳しくは知らない言葉だったが、なんとなく耳なじみがあるのは、似たような名前の眠気覚ましのサポートドリンクのせいだろう。(それにしても「眠眠打破」ってネーミング、秀逸だと思いませんか?)

 桜の花芽は夏に形成され、そのまま休眠状態に入って冬を迎える。その休眠状態から目覚め、開花に向けた準備を始めることが「休眠打破」であり、そのトリガーは一定期間低温にさらされることだとか。なんとなく思うのは、暖かくなると目覚めるのかなってことだけど、それは全くの素人考えで、寒さが続くと目覚めるのだ。

 目覚めてから開花までのスピードは、その寒さから暖かくなるまでのスピードと密接に関係している。冬の寒さが厳しく、そこから急激に暖かくなると、開花のスピードも早まるのだ。即ち、大阪よりも寒さが厳しく、今月に入って暖かすぎる日が続いた東京は、大阪よりも寒暖差が激しく、開花が早まったようである。

 まあ、人間でいえば、より深くドツボに落ち込んだ人は、同じレベルまで戻っても、そこそこの線にとどまっていた人よりも早く気づき、早く花が咲く、というような話であり、何とも教訓的かも...

 

 ってことで、頬に春の日差しを感じながら、ごそごそ引っ張り出してきたアルバムが今日の一枚。そうそう、このボーカル。僕にとっては春のイメージだった。当時なんだか初々しく新鮮な音楽だったなー、と少し懐かしくなった。スウェーデンストックホルム・レコード発、1995年リリース、カーディガンズのセカンドアルバム 『LIFE』 である。

 当時僕は、仕事での流れもあって、自分の好みとは別の次元で、新しい音や音楽をひたすら求め聴いていた。その興味の対象は、急激に変化しつつあったエレクトロニックな音の世界であり、サンプリングやプログラミングの技術進化を見せる音楽だったり、時代を表すダンス系、クラブ系の音楽だったりした。

 そういう中にあって、ちょっとヘビーでレトロなバンドサウンドの上に、少し奇抜な感じで様々な生楽器の音が乗る、当時の僕の興味の枠を大きく外れたキャッチーな音楽が巷に流れ始めていた。アメリカの音楽とは一線を画す60'sイメージの上に、ボーカルのニーナ・パーションの声が乗る。サウンドとして新しさは無いのに、なぜかとても新しく感じる音楽の世界に、僕も知らず知らず引き込まれ、このアルバムを入手し、よく聴いた。恐らくその後最盛期を迎えたスウェディッシュ・ポップの代表作だろう。そして僕にとっては、ある意味、最先端の音の呪縛から逃れられたきっかけだったかもしれない。

 アルバムは、当時日本でも大ヒットした「Carnival」で始まる。この曲の中毒性は、どこから来ているのだろう。曲の良さはもちろんあるだろうが、それだけでもない。少しレトロに感じる音やアレンジの中に、ニーナの声も含め、どこか人の心に訴えかけるものがあるのだ。

 4曲目の「Stick And Tired」も、前奏を聴いたとたんに、どこか古臭い雰囲気に包まれるのだが、締まったバンドサウンドとニーナの声に加え、フルートやファゴットが前奏や間奏で効果的に鳴る。そのちょっと奇妙なアレンジが、クセになっていった。

 僕は10曲目の「Celia Inside」を聴いて、ニーナの歌は、案外ジャズやボサノバのようなジャンルの中でも魅力的に響くんだろうな、と思った。懐の深さを感じた一曲だ。

 そして11曲目、「After All...」 アルバムの冒頭とはうって変わって、しっとりとした世界に包まれ、このアルバムの奥行きを、さらに感じさせてくれる。

 プロデュースはトーレ・ヨハンソン。彼はカーディガンズによって世界的に名声を得て、それをベースにスウェディッシュ・サウンドを確立していった。その後、日本でもたくさんのミュージシャンをプロデュースし、今に繋がるポップミュージックの世界にも大きな影響を与えた。そのきっかけとも言えるこのアルバム、やはり名盤である。

 

 そういえば、それからしばらくして手に入れた、ちょっと変わったジャズ・スタンダード・アルバム 『12 Standards』 で、なんとニーナの歌声に出会ったことを思い出した。そのアルバムもスウェーデンストックホルム・レコードの制作で、ジェニファー・ブラウンやリサ・ニルソン、ニーナなど、スウェーデン出身の様々なジャンルの女性シンガーが、ジャズのスタンダードを歌うという贅沢な企画盤である。

 ニーナが歌うのは、ジョビンの名曲、「Desafinado」だ。まだまだデビューして間もないころで、こなれていない印象はあるが、結構合っている。最近の彼女の活動も聞かないが、このあたりの路線を今聴いてみたい気がする。

 久々に聴いていて、当時のフレッシュな感覚がよみがえってきた。彼女の声はやっぱり春に合う。その両者が相まって、今日の陽気のようにあたたかな気分になってきた。

 そろそろ僕も遅ればせながら、休眠打破、しないとね。

 

 

<関連アルバム>

The Life by The Cardigans (1995)

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