Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

How Do You Keep The Music Playing

 シモーネ・コップマイヤーは、1981年オーストリア生まれのジャズ歌手だが、ちょっと鼻にかかった歌声と、程よく力の抜けた感じが僕は結構好きで、翌日が休みの日の深夜、その歌声にそっと聴き入ることがある。特に2004年にリリースされた彼女のセカンドアルバム 『Romance』 は、選曲の良さも手伝って以前から愛聴していて、全体を流れる緩やかな雰囲気は、週末のクールダウンに最適な一枚だ。

 その中に収められている「How Do You Keep The Music Playing」は、僕の大好きな曲だ。原曲は男女のデュエットのために作られたこの曲を、彼女はゆったりと、ピアノ一本でささやくように歌う。

 少し暗めの部屋で、手元の明かりだけで活字を追っていた目を、空中に漂わせながら聴き入れば、その音楽が体の中に沁み込んでいくような感覚を覚える。こういう感じで聴くのも悪くない。

 しかし、少し我に返って原曲を思い起こせば、この曲のロマンティックな雰囲気を冒頭から演出してくれる独特のピアノ音形が頭の中に響き始める。そう、確かデビッド・フォスターが演奏するピアノサウンド。プロデュースはクインシー・ジョーンズ。アレンジにはジョニー・マンデルも名前を連ねてたんだっけ。そうそう、クインシーのお気に入りのミュージシャンで固めていたような...なんて思い始めるともういけない。聴きたくなって、思わずCDの棚を探し始める。

 1983年、ジェームス・イングラムパティ・オースティンとデュエットで歌ったバージョンが原曲だ。ジェームス・イングラムのデビュー・アルバム 『It’s Your Night』 に入っている。

 この曲は、「Best Friends(邦題:結婚しない族)」という、あまりパッとしなかったコメディー映画の主題歌だったため、ビルボードのヒットチャートでも50位あたりまでしか上がらなかった記憶がある。しかし、名曲はヒットしなくても生き残るのだ。しかも、今回気付いたのだが、作曲はミシェル・ルグランだった。なるほど、ジャンルを越えて歌い継がれているはずである。

 

  どのようにして音楽を奏で続けるのだろう

  あまりにも早く終わってしまう歌を

  どうやって歌い続けるのだろう

 

 男女の人間関係の継続を、音楽にたとえて歌う歌詞は、シンプルでありながらも深い内容だが、作詞は映画「追憶」の主題歌「The way we were」でおなじみのアラン&マリリン・バーグマン夫妻。隅から隅まで力の入った楽曲だ。

 このロマンティックな音楽は、それ以来いろいろな人にカバーされ続けているが、冒頭のシモーネのようにシンプルに歌うバージョンは少ない。やはり、どうしても大編成をバックに熱唱するパターンに行き着くのだろう。

 ということで、僕がよく聴く大編成バージョンを2つ紹介しておこう。まずはジョージ・ベンソンがリリースしたビッグバンドアルバム 『Big Boss Band』 からのバージョンで、ジョージ・ベンソンとカーメン・ブラッドフォードのデュエットだ。

 このアルバムは、ビッグバンドのゴージャスでダイナミックな表現をたっぷり詰め込んだ一枚で、この曲でもその雰囲気はしっかりと伝わるが、ロマンティックさは少し失われているような気もする。

 そういう点では、やはり王道を行くオケでの演奏を聴きたい。ということで、引っ張り出してきた一枚、2006年のトニー・ベネットのアルバム 『デュエット』 から、トニー・ベネットジョージ・マイケルのバージョンはどうだろう。

 オケをバックにロマンティックに歌うデュエットが男同士、というのも面白いが、これでもかと、ぐいぐいくるこの大げさなアレンジは、アルバムの最後を飾る曲だったから余計にかもしれない。とっても「トニー・ベネット的」だ。

 しかしここまで聴いていくと、さすがに胃もたれしてくる。うーん、と唸りながら、結局最初のシモーネのアルバムに行き着く。そして、じっくりと聴きながら、改めて、歌い継がれていくことの素晴らしさを思うのだ。

 そこには、この曲のタイトルでもある問いかけへのひとつの回答がある。そして別側面、もう一つの回答がその歌詞の最後に書かれている。

 

  私たちがよりよく成長するために

  毎日努力することができるなら

  音楽は決して終わらないはず

 

 

<関連アルバム>

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