Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

ジム・ホールの肖像

 ジャズ・ギタリストのジム・ホールが今年の1月に来日することを知ったのは、昨年の秋も深まった頃だった。大阪でのライブは予定されていなかったが、まさにこの週末、1月18日と19日は横浜と東京でベーシストのロン・カーターとライブの予定だった。伝説のデュオ復活に思わず僕自身の1月のスケジュール表を確認して、土曜日だし何とかならないものか、などと思いつつ、どうにもならないこの時期のスケジュールを恨めしく思ったものだ。

 親日家で毎年のように来日しているジム・ホールも、ライブ時点で83歳。ロン・カーターは弱冠(??)76歳だが、彼らの1982年のデュオ・ライブ盤 『Telephone』 を引っ張り出して聴きながら、この二人の生演奏を聴くのは最後の機会になるかもしれないのにと、少し諦めきれない気分になっていた。

 その時、あの名盤の誉れ高い1972年のデュオ盤 『Alone Together』 を持っていないことに気づいた。聴きたいなー、よし、せめてそれでも入手して我慢しよう、なんて思っていたんだけど...そんな矢先の先月中旬、ジム・ホールの訃報が流れた。最初に朝刊で見たときには本当にびっくりした。巨星墜つ。そんな言葉が頭に浮かんでは消えた。

 

 僕のブログでも、ジム・ホールの登場回数は多い。彼自身のリーダーアルバムやデュオアルバムでのさりげない存在感、さらにはアート・ファーマーやポール・デズモンドのリーダー作などたくさんの名盤で見せる脇役に徹した渋い演奏の中での安定感は絶対的だった。そんな中で、時に見え隠れするアグレッシブなアプローチや意表をつくコードワークも、常にベースにオーソドックスなスタイルが流れているからこそ、そのバックに拡がる海のように深い音楽性や柔軟性を感じることができるものだった。まだジャズを聴き始めた頃、僕の中でのジャズギターのイメージはまさに彼の演奏によって出来上がったし、その印象は今も変わらない。

 そんな彼が、ジャズ・ギターの革命児であったパット・メセニーとデュオアルバム「JIM HALL & PAT METHENY」を出した時には驚いたが、その内容は、当時意外にも感じたこの二人の音楽的な共通性と、パット・メセニージム・ホールへの深い敬愛の念を感じることができるものだった。

 親子ほど歳が離れている二人は、その時点でジム・ホールが70歳前、パット・メセニーが40代だったが、何の違和感も無く噛み合っている。二人も語っているが、ギターを弾くときに見ている景色が同質のものなのだろう。音楽的な着想やハーモニーのアイデアも近く、まるで血族か家族のように感じた、という言葉に納得できるものだった。

 一曲目はジム・ホールの楽曲「Lookin’ Up」で軽快に始まるこのアルバムは、二人の思い入れの詰まった音楽が全17曲収まっている。その中には5曲の少し前衛的な即興演奏(Improvisation No.1~5)が挟まり、残りは思い入れの強いスタンダード曲なども含みながら、二人の曲が絶妙に配置され、とてもバラエティー豊かな仕上がりになっている。演奏もスタジオ録音とライブ録音が混じり、ジムはジャズ・ギターのみだが、パットは様々なギターをとっかえひっかえ演奏している。

 パット・メセニーは1969年、15歳のときにニューヨークのクラブに出演しているジム・ホールに初めて会いに行ったらしい。そのときもやはり、ロン・カーターとのデュエット出演中だったということだ。その際に、ジムにパット少年を紹介したのがハンガリー出身のギタリスト、アッティラ・ゾラーで、二人をその時に引き合わせてくれた彼の曲「The Birds and The Bees」を取り上げることで、トリビュートの意志を込めているのも興味深い。

 この豊かな二人だけの演奏を聴いていて、パットの楽曲「Don’t Forget」が耳に止まった。「忘れないでくれ」そういっているのはパットではなくジム・ホールなのだろうか。もちろん、その演奏を忘れられるはずなんてないんだけど...

 

 思い立って、今晩出演するはずだったブルーノート東京のホームページを尋ねてみた。そこには以下の文章があった。

 「最も偉大なギタリストの一人であるジム・ホールさんが12月10日、N.Y.のご自宅で逝去されました。83歳、12月4日にお誕生日を迎えられたばかりでした。素晴らしい音楽やギターの演奏はもちろん、明るく朗らかなお人柄で、周囲の人々をいつも笑顔にしていたジムさん。来年1月には長年の盟友であるロン・カーターさんと一緒に来日される予定で、スタッフ一同、お迎えできることを楽しみにしておりました。奥様のジェーンさん、ご家族の皆様に心からお悔やみを申し上げます。ブルーノート東京

 そうそう、ジム・ホールはとても愛妻家だった。奥様であるジェーン・ホールも音楽家だったようだが、ジムは時に彼女の曲も演奏したり、彼女のボーカルを忍ばせたりもしている。恐らく毎年の来日には夫婦一緒に来ていたのだろう。そういう話になると思い出すのが、ジム・ホールがトランペット奏者トム・ハレルをフィーチャーしたアルバム『These Rooms』の中での僕の大好きな曲、ジェーン・ホールの作曲した「Something Tells Me」だ。(この演奏は、ピアニストの Enrico Pieranunziとのデュオです)

 今日は、12月に亡くなったジム・ホールの冥福を祈りながら、奥様の作ったこの曲を演奏する彼の音楽を聴こう。そうそう、その前にロン・カーターとのデュオ盤、「Alone Together」を買いにいかなきゃね。

 

 

<関連アルバム>

Alone Together

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