Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

シンフォニー・セッションズ

 寒いので冬眠中、と言いたい気分だ。でも熊じゃないので冬眠しててもおなかは減るし、仕事もあるのでおちおち眠ってもいられない。かくして、寒い中を朝も早くから、ぼそぼそ起きて活動するわけだけど、やはり寒いのは苦手だ。まあ、暑いのも苦手なんだけど・・・

 そんな中、世間はソチ・オリンピックで盛り上がっている。僕はといえば、これまでウィンタースポーツには縁がなかったので、冬の競技にはあまり興味が湧いてこない。それでもニュースでオリンピックのハイライトが流れていれば、ついつい見てしまい熱くなって、「上村愛子はえらい!」などと頷いてしまうんだけど。

 期待を背負ったアスリート達はみんな頂点を目指しているので、夢が叶った喜びよりも、夢がついえた悔しさを見る事の方がどうしても多くなる。競技そのものを純粋に楽しめればそんなこともないんだろうけど、あまり知見のない僕にとっては、そういうちょっと切ない部分だけが目に付いてしまって、余計に遠のいてしまうのだ。

 ただ、金曜日の深夜にあった開会式だけは、またまたフルで見てしまった。早朝だったロンドン・オリンピックの開会式も音楽に焦点を当てたもので結構楽しんだんだけど、音楽の視点だけでいくと、「ロシア」といえばやはりクラシック。(タトゥーじゃないです。)地味ではあったけど、たくさんのロシアを代表する作曲家の音楽が流れ、さすがと思わせた。チャイコフスキー、ハチャトリアン、ストラヴィンスキープロコフィエフ等々。その音楽は出し物と合わせて印象的だったが、そんな中で開会式のテーマソング的な役割を果たしていたのは、ボロディンの「ダッタン人の踊り」(オペラ「イーゴリ公」より)だった。

 学生時代、この曲もまた、一度演奏したくて叶わなかった曲だ。豊かで広大な平原を思わせるテーマが、やさしく大らかな心持にさせてくれる、僕の大好きな曲である。

 

 そんなことを思いながら、久々にのんびりとした休日を過ごしてるんだけど、さて、今日は何を聴こうかといろいろ迷った。この流れでクラシックも芸がないし、と、ふと思い立って引っ張り出してきたのがこれ。デイヴィッド・フォスターの2枚目のソロアルバム、1988年リリースの 『シンフォニー・セッションズ』 だ。

 学生時代にはビルボード・チャートを追いかけたりもして、結構ポップス系の音楽は聴いていたんだけど、周辺の情報を細かく気にする方ではなかったので、なんとデイヴィッド・フォスターのことを認識したのはこのアルバムが最初だった。それも、何かの雑誌のニュー・リリースの記事で見た全面グランドピアノのジャケット写真に興味を持って、その記事だけでは何のジャンルのアルバムかさっぱりわからないまま、たまたま店頭のポップスコーナーで見つけて購入したのだ。

 その時点で既にプロデューサー、アレンジャー、コンポーザーとしてグラミー賞にノミネートされること24回、84年には最優秀プロデューサーに選出されていて、日本のポップス界にも既に大きな影響を与えていた。竹内まりや尾崎亜美のプロデュースもしていたので、当時名前を聞いてピンと来なかったのが不思議なくらいだった。シカゴの「素直になれなくて」の作曲と彼らのプロデュースは、当時の彼の代表的な仕事だ。

 そんないかにもアメリカンな印象のデイヴィッド・フォスターは、実はカナダ人であり、86年の自身初のソロアルバムに次いで2作目となる本アルバムでは、殊にカナダへの回帰色を鮮明にしている。本作は、カナダのバンクーバー・シンフォニー・オーケストラをバックに、自身で作曲・アレンジした音楽を全10曲ピアノ演奏したアルバムで、実は僕が音楽のジャンル分けにこだわらなくなった、最初のきっかけをつくってくれたアルバムだったのかもしれない。

 そして、今日紹介しようと思った最大のトリガーは、このアルバムの6曲目に収められた曲、「Winter Games」が、1988年にカナダで開催されたカルガリー・オリンピックの公式曲だったことだ。冬季オリンピックの公式曲といえば、札幌オリンピックの「虹と雪のバラード」と、この「ウィンター・ゲームス」くらいしか思い浮かばない。

 この時代のポップス系のアルバムは、得てして当時流行したデジタルシンセサイザーの音に溢れていて、今聴くとなんとも古臭く時代がかったものが多いのだが、このアルバムは違う。冒頭の曲、「Piano Concerto in G」から驚かされたように、オーケストラとピアノが主体の、今聴いても決して古くない、素晴らしい音楽が詰まっているのだ。

 いきなりのピアノ・コンチェルト風の楽曲から始まったあと、それに続く2曲目、「The Ballet」は、まさに第2楽章アダージョ、という感じである。

 4曲目の「Conscience」も7曲目の「Water Fountain」も、まるで映画のワンシーンを観るような、ゆったりとした感傷的な曲だが、それもそのはず、「Water Fountain」は、マイケル・J・フォックス主演の映画「摩天楼はバラ色に」の挿入曲「愛のテーマ」で、このアルバムの影響で僕もDVDを期待しながら観たんだけど...なんと、ちょっとおバカなコメディーで、期待とは大きく違っていた。(何も考えず楽しみたい人にはお薦めです。)

 最後の曲、「We Were So Close」は、唯一のピアノソロ。そのやさしい音楽は、この素晴らしいアルバムの興奮をすばやくクールダウンさせ、静かな余韻をしっかり定着させるために機能しているようだ。

 ある意味、臆面もなくデイビッド節を思いっきり奏でたこのアルバムを、僕はしばらくの間、かなり愛聴していた。今思えば、僕のそれ以降の音楽的な志向に、大いに影響を与えてくれたアルバムだ。

 デイビッド・フォスターは、その後さらに活躍を続け、たくさんのミュージシャンを世に出して、今やワーナーの重役でもある。最近は、かつてその音楽を共に紡ぎだしたミュージシャン達とコンサートを開き、その豪華なメンバーと日本ツアーも行っている。まるで往年のクインシー・ジョーンズのようだが、その位置に誰でも来られるわけではない。

 

 窓越しに、ひんやり寒さの増した空を眺めながらも、温まった部屋と懐かしくやさしい音楽で、気分もぽかぽかしてきた。とにかく結果は気にせず、力を出し切って欲しい。まだまだ雪が残って大変な日本列島に続いて、雪のかけらもないソチ周辺の映像を眺めながら、ちょっと不思議な気分になりつつ、そんな勝手なことを思う、冬の休日だった。

 

 

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