Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

マイ・ソング、ユア・ソング

 透明感溢れるまっすぐなサックス・サウンド。北欧を思わせるひんやりとした感覚。だけど何故か温かい。そんなヤン・ガルバレクの吹くソプラノサックスの登場を、爪弾くように始まるキース・ジャレットのピアノは、完璧なまでにお膳立てする。最初の数小節を聴きさえすれば、後に続く世界がスッと頭の中に浮かびあがってくる。キース・ジャレットの名曲、「My Song」だ。

  ☆ Link:My Song / Keith Jarret

 梅雨の幕あい。晴れ間の見える休日の朝。昨日までとは打って変わって、さわやかな風が開け放った窓から入り込んでくる。キースのアルバム 『マイ・ソング』 を聴きたくなるのは、いつもこういうときだ。

 初期のアーシーでゴスペルがかったアルバムや、同時期にアメリカン・カルテットと呼ばれるメンバーたちと残した数々のアルバムとは違い、『マイ・ソング』 は当時のキースのアルバムとしては異例の親しみやすいアルバムだった。それは、サックスのヤン・ガルバレクを含むヨーロピアン・カルテットと呼ばれるメンバーの影響もあっただろうし、何よりもキース自身がドイツのECMレーベルで身につけ始めていたヨーロッパ流の「洗練」と「大衆性」の結果だったのではないか、と思う。

 親しみやすい曲が入っているとは言っても、実のところこのアルバムは、フリージャズの要素も含んだバリエーション豊かなアルバムで、決して甘いばかりではない。しかし、ジャケットの二人の女の子の写真と、「MY SONG」という手書きのタイトルが、その内容とも相まって、とてもソフトで親密な印象を与えてくれているのは確かだろう。そしてその印象を決定的にするのが2曲目の「My Song」と、4曲目の「Country」だ。

  ☆ Link:Country / Keith Jarrett

 キースは「My Song」をその後しばらくはライブのアンコールでも演奏していたようだが、新たに始めたスタンダーズ・トリオの人気とともに、自ずと自作曲であるこの曲からも遠ざかったようだ。もちろんアルバムでの再録など、ほとんど考えられない状態が長く続いていた。

 「My Song」も他のたくさんの楽曲同様、記憶の片隅に押しやられつつあった中、2003年にギタリストのパット・メセニーがリリースしたバリトン・ギターでのソロ・アルバム 『One Quiet Night』 の中に「My Song」を見つけたときはうれしかった。キースのアルバム 『マイ・ソング』 から25年を経て久々に聴くその曲は、穏やかなギターソロに生まれ変わっていた。

 パット・メセニーの演奏から3年後、キースジャレットは自身アメリカでは10年ぶりとなるソロ・コンサートを行い、2枚組みのアルバム、『カーネギー・ホール・コンサート』 としてリリースした。その10年の間には、慢性疲労症候群で演奏活動を離れなければならなかった時期も含まれていて、キース自身にとっても感慨深いコンサートだったのだろう。ソロの即興演奏が終わった後に、なんと5曲のアンコールが収録されている。気難しい彼が5曲もアンコールで演奏すること自体驚きだが、その3曲目にピアノソロによる「My Song」の再演が含まれている。

 演奏が始まったときの歓声と演奏の終わった直後の歓喜の拍手は、30年近く前に発表したこの曲がファンの心を今もしっかりとつかんでいることを如実に表していた。僕も、このアルバムを入手した頃から、オリジナル盤も含め、この曲を再びよく聴くようになった。

 

 続けざまに「My Song」を聴いた後、聴き散らかしたCDを片付けながら、ふと思ったこと。確かにキースにとってこの曲は「My Song」には違いないけど、一体どういう思いでこのタイトルをつけたんだろう。そんなことを思い巡らしていると、それと呼応するように「Your Song」というタイトルが頭に浮かんできた。ジャンルは全く違うけど、「Your Song」といえばエルトン・ジョンだ。と、今度は無性に「Your Song」が聴きたくなって、エルトン・ジョンの1970年のセカンド・アルバム 『エルトン・ジョン』 を手にとる。

 エルトン・ジョンは素晴らしい曲をたくさん書いているが、このアルバムの一曲目、「Your Song」は誰もが認める不滅の名曲だ。演奏も含め決して古さを感じさせない、僕の大好きな曲である。

 

 こうやって、ジャンルを飛び越えいろいろ音楽を聴きつないでいると、時々ちょっとした符合が気になることがある。

 キース・ジャレットエルトン・ジョンは実は一歳違い。キースの方が一つ上だ。どちらもクラシックの世界で子供の頃から才能を開花し、キースは高校卒業後、ボストンのバークリー音楽大学へ、エルトン・ジョンは神童振りを発揮し、12歳から18歳までの6年間、英国の王立音楽院で学んでいる。

 デビューはキースが1967年、エルトン・ジョンが1969年とキースの方が2年早いが、まだまだ駆け出しだったキースがヨーロッパでソロ活動を行うようになる70年代前半、エルトン・ジョンは既に英国発のポップ・スターとして全世界を席巻していた。ジャンルは違うとは言え、世界を縦横にクロスする二人に、何らかの接点があったとしても不思議はない。

 キースは、泥臭いアメリカのジャズシーンの音楽をそのまま欧州に持ち込むのではなく、欧州の洗練を感じさせるスタイルを身に着けながら、多くの聴衆の心をつかんでいく。アルバム『My Song』に代表される、ヨーロピアン・カルテットでの成功は、その一つの象徴とも言えるだろう。

 そういうことを思いながら、エルトン・ジョンの「Your Song」と合わせて、キースの「My Song」と「Country」を聴いていると、なんとなくその曲調や音楽の流れが、かぶってきたりするのだから不思議だ。二人はお互いの音楽を聴いていたのだろうか・・・

 

 徒然なるままに、いろいろと愚にもつかないことを考えながら、束の間さわやかな風を体に感じていると、また明日から始まる喧騒の日々が不意に頭をよぎり、少し肩をすくめてみる。そんな穏やかな梅雨の切れ間の休日なのでした。

 

 

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