気がつけば音楽が流れていた ー Jerrio’s Cafe

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

レディオヘッドの解釈

 気持ちのいいアルバムである。高く澄んだ空をすくっと見上げて、クリアな空気を胸いっぱい吸い込みたくなる。英国の女優、エリザ・ラムレイ(Eliza Lumley)のアルバム 『She Talks in Maths』 の第一印象はそんな感じだった。 


She Talks In Maths (2007) / Eliza Lumley

 エリザ・ラムレイと言われても、知っている人は少ないだろう。このアルバムは、彼女が今までにリリースした唯一のアルバムであり、しかも国内盤は発売されていない。それでも、音楽誌の片隅で見たこのアルバムを入手しようと思った理由は、そのサブタイトル「Interpretations of Radiohead」にあった。レディオヘッドの解釈・・・そのアルバムは英国のロックバンド・レディオヘッドの楽曲カバー集のようであり、そのことが、僕の触手を刺激したのだ。

 ジャンルも分からない、歌い手も知らない。それでもおそらくはジャズだろうと踏んで、それなりの気分でアルバムに向かった。それなり?・・・それはレディオヘッドをジャズの中で聞く気分、少し欝々とした暗めの気分、というところだろうか。その雛形は恐らく、レディオヘッドの楽曲を好んで取り上げているジャズピアニストのブラッド・メルドーロバート・グラスパーあたりから来ていたのだろう。時代を代表するジャズミュージシャンである彼らが好んで取り上げるのは、レディオヘッドの悲しくも美しい側面なのだ。もちろん、レディオヘッド自身が醸し出すネガティブ感や鬱屈した感じも影響したのだろう。しかし、その「それなり」の感覚は、このアルバムを一聴して、見事に覆ったのである。

 

 1曲目は「High and Dry」。この短くまとめられたオープニングには肩透かしを食らった。確かにレディオヘッドの曲だけど、こんなに優しい感じの曲だったっけ・・・。エリザはピアノ伴奏のみでシンプルに静かに歌っているが、その印象はこのアルバム全体の方向性を表している。

  Link:  High and Dry / Eliza Lumley

 2曲目の「Black Star」はジャズアレンジだが、その上に乗る声は、ひたすらストレートで、トム・ヨークの悩める歌詞さえ聞かなければ、どこにも陰りは無い。

  Link:  Black Star / Eliza Lumley

 4曲目の「Let Down」は、ストレートに響き渡るピアノの伴奏のみ。その横に立って、舞台の上で背筋を伸ばし、ライトを見上げ朗々と歌い上げる姿が見えるような歌唱だ。清新な響きに心が洗われたような気分になる。

  Link: Let Down / Eliza Lumley

 5曲目の「No Surprises」もピアノアレンジながら、少し自由度のある伴奏の上を、エリザは囁くように声を乗せる。途中で入る弦楽器もいい味を出し、十分に癒しの音楽に聞こえる。

  Link:  No Surprises / Eliza Lumley

 

 最初の2曲、「High and Dry」と「Black Star」は、レディオヘッドのセカンドアルバム 『The Bends』 に収録されている曲だが、このアルバムの頃のレディオヘッドは、よくある感じの少し鬱屈した英国のギターロックバンドという印象で、当時ひたすら新しい音を追っていた僕にとってはあまり興味の対象に入っていなかった。

 僕自身もアルバムを入手してせっせと聴き始めたのが、その次に紹介した「Let Down」と「No Surprises」が収められているレディオヘッドのサードアルバム 『OK Computer』 からだ。ブレイクビーツや生楽器、SEサウンドを音響構成の中に大胆に取り入れる手法は、その後のロックバンドの有り方を示唆したアルバムであり、レディオヘッドが、ただのギターロックバンドではないことを証明した名盤である。

 そして、レディオヘッドはさらに大きく変化する。4枚目のアルバム 『KID A』 を聞いた時は、本当にびっくりした。彼らは、電子音を大胆に取り入れ、ほとんどエレクトロニカのバンドになっていたのだ。その中の一曲「How To Disappear Completely」を、エリザ・ラムレイはこのアルバムから唯一取り上げている。そのアレンジは、原曲ほどではないにしても、エレクトロニックな加工が施され、よりスペイシーに気持ちよさを演出している。

  Link: How To Disappear Completely / Eliza Lumley

 とにかく気持ちのいいアルバムである。聴いていると、どんどん浄化されていくような気がする。そして洗い流された後には、曲そのものの魅力だけが残っているのだ。僕はこのアルバムに出逢って、レディオヘッドの楽曲の良さを再認識した。

 

 一通り聞き終わってジャンルを問われても、決してジャズとは言えないだろう。初期の4枚のアルバムから、一本筋の通った目線でおいしい楽曲を選び抜き、エリザ自身が自らの世界で再構築した印象だ。

 強いて言うなら、僕にはミュージカルに使われる音楽のように感じられた。一つの世界を、レディオヘッドの曲を使って表現するミュージカル。エリザ・ラムレイの頭の中には、そんな光景があったのかもしれない。それもそのはず、実はエリザはミュージカル女優なのだ。かつて、ABBAの楽曲を使ったミュージカル「マンマ・ミーア」のロンドン・オリジナルのキャストとして主役の一角を担っていた。

 今も様々なミュージカル作品に出演しているらしいが、いつの日か、レディオヘッドの楽曲をちりばめたミュージカルを企画し、出演するなんてこともあるかもしれない。しかし、そのミュージカルって・・・・・・きっと、明るくはないよね。

 

 

<おまけ>

 それぞれの曲を、レディオヘッドの原曲でも聴いてみましょうか。まずは、セカンドアルバム 『The Bends』 からです。 


The Bends (1995) / Radiohead

  Link: High and Dry / Radiohead

  Link: Blackstar / Radiohead

 

 次は、サードアルバム 『OK Computer』 からです。 


OK Computer (1997) / Radiohead

  Link:  Let Down / Radiohead

  Link: No Surprises / Radiohead

 

 そして、大きな転換点。4枚目のアルバム 『KID A』 からです。


KID A (2000) / Radiohead

  Link: How To Disappear Complete / Radiohead

 

 

 ※  アルバム写真は、Amazonサイトにリンクしています

 ※  Link: は、YouTubeにリンクしています 

 

にほんブログ村 音楽ブログ 音楽のある暮らしへ にほんブログ村 音楽ブログ 好きな曲・好きなアルバムへ

 上のブログランキングもポチッとお願いします!