行列に並ぶのが嫌いだ。狙って訪れた店でも、数名並んでいるだけでやめようかな、と思ってしまう。待っても10分が限度。そんな感じだった。
先週、休日に梅田に出た際、最近開業した商業施設の中の美味しいと評判の焼き鳥店で、昼飲みでもしようとなった。案の定、並んでる、並んでる。やはり人気店だ。それなのに何の躊躇もなく心軽やかに列の最後尾に並ぶ自分に気付いた。変化の理由は明白。関西万博の洗礼を受けてハードルがうんと下がったのだ。こういうことにも「慣れ」ってあるんだね。
5月の連休が明けた頃、春先に仕事の関係で万博チケットをいただいていた事を思い出した。そのままにしていると、夏も終わる頃に「あまり気が進まないけど、さてどうしよう」と逃げ道のない決断を迫られることが目に見えていたので、先手を打って早めに行くことを画策。「梅雨」も「暑さ」も避けるためには5月中に決行しなきゃ、ということで5月末の木曜日に休みを取って行くことにしたのだった。
地下鉄に直結の東ゲートの入場は、平日だというのに既に午前枠は満杯で入場不可。正午以降の入場となった。予約ができるパビリオンもめぼしいところは既にいっぱいで、とにかく行ってから考えるしかなかった。
スムースにいったのは東ゲート前の夢洲駅まで。平日だから案外大丈夫かも、などという淡い期待は、ゲート前の大行列でいきなり吹っ飛ぶことになる。それでも何とか12時過ぎには入場できたものの、そこから30分ほど地図を片手に近場のパビリオン前を行ったり来たりして、ようやく現実が見えてきた。
入れるところから入ろう、などと思いながら回っていても、待ち時間の表示は120分、90分、60分・・・30分以下のところなんて見当たらない。そんなに長い時間並ぶのなんて嫌だ~、などと駄々をこねていると、せっかく来たのにうろうろするだけで、結局どこにも入れないことが分かってくる。
急遽方針変更。とにかくまずは我が同行者(うちの奥さんです)が下調べで「行きたい」とチェックしていたパビリオンに優先順位の高い方から行ってみて、2時間待ち以上のところは諦め、それより短ければ並ぶ、ということにした。そうと決めればあとはシンプル。迷うことも無く、並ぶことにも慣れてくるのだ。
夕方になると並ぶ時間も少しずつ短くなり、「30分待ちで入れるなんて、ラッキー!」などと思えるようになる。さらに閉館近くになれば、なだれ込めるところも出てくる。その日はほぼ最後までいたのだが、8館ほどの海外パビリオンといくつかのテーマ館、水上ショーもしっかり見られた。シンボルになっている大屋根リングも半周ほど散歩ができて、夜の海風も寒いくらいで心地よかった。歩数は約3万歩。さすがに足は限界に近かった。

もう一度行きたいかと問われると、うーん・・・となるのだが、思った以上によかった、というのが正直なところだ。日常では味わえない楽しさや魅力を感じるものは多かったが、それでも一般のテーマパークとは違うので、単純なエンターテインメントでもない。積極的に面白がる気持ちに沿った楽しさ、というところなのだろう。
大阪の子供たちは学校から行くところも多く、たくさんいた子供の集団に、はて、楽しめてるのだろうか、と心配したり、引率を担う先生方に同情したりもしたけれど、思えば、1970年の大阪万博の時は、僕も9歳だった。夏休みに家族と行った大阪万博はとても楽しかった記憶がある。愛媛から大阪へは、関西汽船で夜中に移動する強行軍だったが、覚えているのは会場までジュラルミン色の電車に乗ったこと。自動販売機でのクラッシュドアイス入りのコーラやジュースが珍しくて何度も飲んだこと。動く歩道にびっくりしたこと。太陽の塔が猫背だなと思ったこと。三菱未来館に入るために6時間並んで、その間に2回、並んでいた人が救急車で運ばれたこと、というレベル。いくつかのパビリオンにも入ったのだけど、その中でのことはほとんど覚えていないのだ。それでも「楽しかった」と言えるのは、日常とは全く違う空間世界を全身で感じていたせいなのだろう。まだピカピカの子供たちにとって、全ては新鮮で楽しいのだ。
それにしても、この異常な暑さ。万博会場はとんでもないことになっているのでは、と心配してしまう。5月末でもそれなりに暑かったけど、果たして蒸し風呂のようなこの暑さの中で、あんなに長時間並べるものなのだろうか。それはそれで、忘れられない思い出として残るのかもしれないけどね。
ということで、今日の音楽。
関西万博で最初に入ったのはスイス・パビリオンで、切り絵で展開されたスイスの歴史や文化を表したパノラマは楽しくて色々探索してみたくなったし、未来社会への願いが大きなシャボン玉になって浮かび上がる空間は幻想的だった。モニターに映る顔が、何故かみんな「アインシュタイン顔(!)」になる場所もあったりして、大笑いもさせてもらった。


その出口にある販売のコーナーには、いかにもスイスらしいお土産が並んでいた。Made in Switzerland は、何でもびっくりするほど高くて、あまり売れている気配はなかったけれど、その中のいかにもスイスっぽい木でできた牛の置物を見た時、思わず思い浮かんだのが、スイスのジャズ・ピアニスト、ティエリー・ラングのアルバム『リョバ』のジャケットだった。

このアルバムは10年以上前、梅田タワー・レコードの年末ワゴンセールで、超廉価で手に入れたものだ。全く知らないジャズ・ピアニストの作品ではあったが、赤いジャケットに写るカウベルを下げた牛の姿が何ともスイス的で、そのジャズ・アルバムらしからぬジャケットに「こりゃ売れんやろな」と思いながらも、逆に興味をそそられた。これがなかなかの大当たりだったのだ。
スイスの作曲家ジョゼフ・ボベによる伝統的な民謡を中心にティエリー・ラングがアレンジしているのだが、ピアノとトランペット、ベースに加え、チェロ4本による美しいアンサンブルによって何とも牧歌的で穏やかな世界を作り上げている。特に1曲目の「ラン・デ・ヴァッシュ(牛追い唄)」は、このジャケットの写真の通り、スイスののどかな牧場の雰囲気をひたすら醸し出している。
5曲目の「ルイモ―テレ・ド・ジャン」などを聴いていると、チェロ・アンサンブルを中心とした室内楽のようにも思えてくる。それを受けて美しく響くティエリー・ラングのピアノや、マシュー・ミッシェルのトランペット、ヘイリ・カンツィグのベースは、懸命にジャズの森に引き寄せようとするのだが、そこはやはりMade in Switzerland。やがてスイス的ともいえる牧歌的で敬虔な音の響きに引き戻されていくのだ。
エアコンの効いた部屋で、こうやってスイス由来の音楽を聴いていると、静かな気持ちになってとてもリラックスするのだが、一歩外に出ると、体中にモアーっとした空気がまとわりつく。逃げ場のない暑さだ。38度や39度、40度なんて、尋常じゃないよね。それでもまだまだ万博は続くわけで・・・ほんと、お疲れ様です。

上のブログランキングもポチッとお願いします!

















