Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

「PERFECT DAYS」ささやかな幸せを拾い集めること

先週の日曜日、映画「PERFECT DAYS」を見に行った。コロナ後はじめての映画館だった。カンヌ映画祭で主演の役所広司がBest Actorを獲得したことで話題の映画だが、上映館はそれほど多くない。梅田に行けば大阪駅のステーションシネマでやってはいるようだが…

箸休め的「Like Someone In Love」に心安らぐ

最近、新ショウガの甘酢漬けにはまっている。言ってしまえば、寿司屋のガリに近いのだが、多少甘みを抑え少し厚めにスライスしているので、サクサク食べられてどんなお酒にでも合う。本来は箸休めの一品なのだろうが、常に大量摂取の誘惑と戦っている。 そう…

コロナ禍に沁みる「ファクトフルネス」と独りの音楽

5月の後半。例年であれば、花粉に悩まされる季節がようやく終わって、さわやかな天候を満喫している一時期だが、今年は随分違う印象だった。快適さは早々に退散し、ここ近畿地方では観測史上最も早い梅雨入りを迎えたのだ。 観測史上といっても1951年からと…

「So In Love」にまつわる記憶の連鎖の行先は

前回紹介したカエターノ・ヴェローゾのアルバム『異国の香り ~アメリカン・ソングス』を聞いていて、思い出したことがある。何年か前、土曜の朝の対談番組に、作詞家の松本隆が出演していた時のことだ。 あのぼんやりやさしい語り口で、ヒットを連発しはじ…

「Feelings」が導くかっこいい二人についての話

ブラジルポピュラー音楽界(MPB)のレジェンド、カエターノ・ヴェローゾが2004年にリリースしたアルバム『A Foreign Sound』は、その日本盤タイトルである『異国の香り~アメリカン・ソングス』が示す通り、全曲英語で歌われる古今のアメリカン・ポップ・ソ…

11年目の扉はトニー・コジネクがこじ開けた

ジャケットの絵が不思議に印象的なカナダのシンガー・ソング・ライター、トニー・コジネクのセカンドアルバム『バッド・ガール・ソングス』は、ずいぶん前から目を付けていたアルバムだったが、最近になって思い立って入手し、事あるごとに聞いてきた。1970…

イエスタデイ

前回、ボサノヴァ誕生のきっかけとなる曲と、それが収められているジョアン・ジルベルトのファーストアルバムを紹介したが、ジョアンが本当に世界に出たのはそこから5年後、1964年にサックス奏者のスタン・ゲッツと共同名義でリリースしたアルバム 『ゲッツ…

ジョアン・ジルベルトを探して

もう一か月ほど前のことになる。9月の最後の日曜日、封切られたばかりの映画「ジョアン・ジルベルトを探して」を観に行った。春先に雑誌で知って以来、ぜひ封切を観たいと思っていたこの映画のタイトルは、ボサノヴァの父とも呼ばれるジョアン・ジルベルト…

レディオヘッドの解釈

気持ちのいいアルバムである。高く澄んだ空をすくっと見上げて、クリアな空気を胸いっぱい吸い込みたくなる。英国の女優、エリザ・ラムレイ(Eliza Lumley)のアルバム 『She Talks in Maths』 の第一印象はそんな感じだった。 エリザ・ラムレイと言われても…

平成の終わりを迎えて

今日で平成が終わる。僕はもちろん昭和生まれの昭和世代だと思っているが、よくよく考えると、生きてきた時間は今や平成の方が長くなっている。昭和が終わった日、僕は28歳だった。結婚3年目で子供はいなかった。就職して5年目。まだまだ何もわかっていない…

The Moon is a Harsh Mistress

前回、アメリカのSF作家、ロバート A. ハインラインの小説 「夏への扉」 を読んで、山下達郎の懐かしい同名の曲がその内容を歌っていたことに気づき、少しばかり驚いたことを書いた。実はこの話には続きがある。 「夏への扉」 で俄然勢いづき、この流れで…

夏への扉

「夏への扉」という小説のタイトルは、これまで何度か目にしたことがあった。それは、読書をテーマにした雑誌の特集記事でのことだったと思うが、日本の小説ではなく外国文学であるということを知ったくらいで、特に触手が動いたわけでも、内容を確認したわ…

The Moon, The Stars And You

何気なく聴いた音楽が、思いがけず心に沁みることがある。 とあるコンピレーションアルバムの中の一曲。音楽を流しながら拡げた雑誌に目を落としつつも、文字を追っていたわけではなく、考え事をしていた。そんな中でこの曲に意識が行ったのは、バッハの無伴…

パントンケント揃い踏み

「最近カナダのダイアナに心酔している」と書くと、ダイアナ・クラールのこと?なんて思われるかもしれないが、少し・・・いや、ずいぶん違う。ちょっとこわいダイアナ・クラールの声とは正反対のイノセント・ヴォイス。いわゆる、かわいい系の声だが、その…

The Rose

先日、NHKの音楽番組『SONGS』が「平井堅オールタイムリクエストベスト」ということだったので、久々に録画して見た。平井堅といえば、最近は様々なタイアップ曲をちょこっと耳にするくらいだけど、少し前にはアルバムも購入して結構聴いていたんだっけ、な…

ゆく夏を惜しめない

ゆく夏を惜しむ。そんな表現が妙に懐かしい。今や、ゆく夏を喜んで見送ることはあっても、惜しむことなど、ほとんどなくなってしまった。夏によく行った海にも、今は全く行かなくなった。この夏帰った四国でも、一度も海に近寄らなかった。唯一海の表情を垣…

ブルーに生まれついて

「チェット・ベイカーの音楽には、紛れもない青春の匂いがする。ジャズ・シーンに名を残したミュージシャンは数多いけれど、「青春」というものの息吹をこれほどまで鮮やかに感じさせる人が、ほかにいるだろうか? ベイカーの作り出す音楽には、この人の音色…

人生は夢だらけ

前回に引き続き、またもやCMから。こういう話題が続くと、ひょっとしてテレビばかり見ているの? なんて思われそうだが、日頃は毎週録画している何本かの番組をスキップしながら見る程度で、リアルタイムで見ることはあまりない。さらにはNHKのものが多いの…

Autumn

そのCMは美しい。純日本的な背景の中、姿勢にも所作にも日本を体現する金髪の女性。たどたどしい日本語は彼女が外国人であることを明らかにする。だからこそ、より一層引き立つ日本の美がそこにはある。 思わず見惚れてしまう映像には、おかしがたい気品が…

月とキャベツ

学生時代に弾いて以来、古びた黒いハードケースの中に入れっぱなしになっていたアコースティックギターを、ちょいと弾いてみようという気になったのは、社会人になって十数年たった頃だった。結婚してからも手許に置いてはいたものの、ベッドの下の見えない…

長い休日

久しく書いていなかった。いや、書けなくなっていたというのが正確だろうか。気がつけばそこから一年近くたっていた。 先日思い立って、これまで書いてきた内容を、最初からぱらぱらと追ってみた。だんだん先細りしてはいるものの、毎月必ずアップしてきた文…

今更ながら米原万里

今更ながら米原万里にはまっている。立て続けに4冊読んで、ついに手持ちが無くなった。禁断症状が出る前に早急に補給しなくては...ハアハア... 訃報に接してもう9年。そんなに経った印象は無いのだが、今や日めくりのスピードが確実に加速しているの…

雨の匂い

6月の夕刻。ずっと閉じこもっていた建物から一歩外に踏み出ると、一面低く垂れ込めた雲が視界を覆った。初夏の雰囲気さえ漂わせていた午前中の陽射しは完全に遮断され、梅雨であることを思い出させる舞台装置に、いくぶん気分も重くなる。 雲の流れは速い。…

You Belong to Me

ゴールデン・ウィークも過ぎて、何か楽しい話でもできればいいんだけど、何だかそういう気分でもないので、今日は前回の続きということで。 前回、聴きたい一心で引っ張り出してきたカセットテープの話をした。両面にドゥービー・ブラザーズの2枚のアルバム…

懐かしくも新しい

もう一年以上前のこと。突然テレビから流れてきたドゥービー・ブラザーズの「What A Fool Believes」を耳にして、不思議な感覚に陥った。目を向けると、キムタクが出てくる車のコマーシャルだったが、あの特徴的で軽快なイントロが30年以上の時を経てとても…

ドレス一枚と愛ひとつ

春を感じさせてくれるもの。その一つに、明るく響く弦楽合奏の音がある。誰もがそういう気分になるのかどうかはわからない。ただ僕自身のその感覚には、思い当たる記憶がある。 学生時代、3回生の3月末にチャイコフスキーの「弦楽セレナーデ」を、4回生の…

秋でもないのに...

秋でもないのに、「When October Goes」が無性に聴きたくなった。昨年もそうだったように、この時期、晩秋に通じるような感覚に陥ることがよくある。その背景を普段意識することはあまり無いのに、無意識に求める音楽から、ふと自分自身の心持ちに気づかされ…

The Other Side of Love

先日、今年の「耳鳴りミュージック・第1号」が個人的に発生してしまった。特定の曲やメロディーが耳について離れず、頭の中をぐるぐる回るようになり、ついには熱に浮かされるように無意識のうちに口ずさんだり、鼻歌で歌ったりしてしまって、「また同じ曲…

未来は明るいですか?

ふわふわした、何だか落ち着かない新年だった。少しはそれらしくしようと飾りつけもして、久々に家族が一同に会しても、新年らしさは年々薄まるばかりだ。かつてのような特別な感覚に満たされることは、もう無いのかもしれない。さびしいことだけど... 元…

ストックホルムでワルツを

先週の日曜日、公開を待ちわびていた映画、「ストックホルムでワルツを」を観に行った。原題は「Monica Z」。スウェーデンの歌手、モニカ・ゼタールンドの半生を描いた映画で、僕はそのことを数ヶ月前に音楽情報誌で知った。 モニカ・ゼタールンド・・・懐か…