Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

サヨナラからはじまること

 いよいよ3月。外気はまだまだ冷たいが、今日は日差しが暖かい。卒業シーズンの到来だ。「卒業」といえば、一昨年の夏、卒業30周年ということで開催された高校の同窓会に出席した。450名ほどいた同期生全員が対象の同窓会だった。かつては「同窓会になんか出始めたら終わってるね」、なんて周囲にうそぶいていたし、実際案内が来ても、仕事を理由に不参加を通してきた。でも今回は、日程に合わせて帰省を計画。30年目にして初めての出席となった。今日はその話をしよう。

 最初に会場のホテルに足を踏み入れ、出席名簿にチェックを入れるため、混雑したロビーに設置された受付へ。周りを見渡しても、見覚えのない顔ばかりで、誰が誰やらさっぱりわからない。あれ?本当にここで合ってる?

 いやー、こんなことになるとは。想像以上でした。でも、宴会が始まり時間がたつと思い出してくる。さらに、ひとりひとり話をすると、みんなあまり変わっていないことに気付く。見た目は多少色々あるけど、基本的には昔のままだ。要するに忘れているのだ。それを思い出すには少し時間が必要、というわけだ。うーん、30年はやっぱり長い・・・かな?

 

 さて、今回なぜ同窓会に出席する心境になったのか。出席者百数十名の前で、ひとりずつ近況紹介をしたが、そこで僕はこんなことを述べた。「30年前のちょうど今頃、確かクラスでは僕ひとりだったと思うけど、2回目(!)の受験勉強の真っ只中でした。いま、うちの息子を見ると、これがなんと全く同じ境遇にあり、あー、30年たったんだなぁ、としみじみ思い、これは行かなければ、と大阪から帰ってきました。」

 実はもう一つ理由がある。3年次のクラスには当時委員長的役割を果たしていたMさんという女の子がいた。彼女はなかなかボーイッシュなところがあり、クラスで最初に会ったときから妙に気が合って、よく冗談を言い合ったものだ。卒業してからも帰省のたびに仲間内で声をかけあって、喫茶店でクダをまいたり、ドライブしたり、泳ぎに行ったり、飲みに行ったりと、遊び仲間だった。浪人中は毎週のように励ましの手紙を送ってくれ、そこには「返事不要!」と必ず記してあった。でも不思議とお互い異性として意識したことはなかった。さっぱりとした付き合いで、ほぼ男友達に近かった。お互い結婚してからは、年賀状だけのやり取りになっていた。彼女の参加していた、前回(卒業20年目)の同窓会後の年賀状には、次回はぜひ出席してみんなで会いましょう、と書かれていた。

 その数年後、小学校の先生をしていた彼女が、血液の病にかかり危険な状態だ、という話を人づてに聞いた。当時僕も仕事が大変な時期で、遠く離れた大阪ではどうすることもできず、そうこうするうちに訃報が届き、葬儀に参列することもできなかった。今回の同窓会は、そんな彼女との約束を果たしたい、という個人的な思いもあったのだ。同窓会は楽しいだけではない。彼女も含め、亡くなった同級生や先生方への黙祷から会はスタートする。同窓会は追悼の場でもあるのだ。

 

 さて、今日は映画とそのサントラ盤を紹介しよう。2005年、竹中直人監督作品 「サヨナラCOLOR」。そのサントラ盤で、ハナレグミクラムボンナタリー・ワイズによる 『サヨナラCOLOR ~映画のためのうたと音楽~』 だ。

 この映画は竹中監督がファンクバンド、スーパーバタードッグのボーカルだった永積タカシハナレグミ)の歌う「サヨナラCOLOR」を聴き、それにインスパイアされて脚本を書き下ろし(馬場当との共同執筆)、監督・主演した珠玉のラブストーリーだ。

 竹中が演じるのは海を臨む病院に勤める医者・正平。そこに、二十数年前の高校時代からずっと彼が思いを寄せていた原田知世演じる未知子が子宮がんを患い入院してくる。全く正平のことを覚えていない様子の未知子に傷つきながらも、正平は献身的に治療し、未知子も徐々に心を開き始めるが...

 竹中直人原田知世が同級生?と最初はちょっと引いてしまうのだが、このありえない設定を越えた所でぐいぐい引っぱっていく竹中ならではの世界に引き込まれてしまった。竹中は案外さらりと演技していて、深刻なシテュエーションに深く入り込ませず、むしろ精神世界を重視した描き方になっている。映画が終わっても、複雑な思いの上に、ほんのりと暖かな感覚がかぶさっていて、救われた気持ちになる。

 この中に、二人が同窓会に出席するシーンがある。マドンナ的存在だった未知子がかつて思いを寄せた教師役に演出家の久世光彦、ギターを弾く同級生役に忌野清志郎が出ている。奇しくも、この映画撮影後の数年で二人とも故人となっていて、映画ながら、同窓会の楽しさと表裏一体の寂しさを感じてしまった。

 このサントラ盤はもちろん映画のための音楽ではあるが、先に述べたように、まず音楽が引き金となった作品であり、インストも含め相乗効果の中で出来上がった素晴らしい音楽小品集になっている。映画には、演奏した面々もゲスト出演していて、不思議な雰囲気を醸し出している。まさに竹中ワールド全開といえる。

 サントラ盤最後の曲はタイトル曲 「サヨナラCOLOR featuring 忌野清志郎」。これが実に素晴らしい。清志郎の声は、ハナレグミの歌の世界と不思議な形で溶け合っていて、そのハーモニーはオリジナルとは違った新しい味を醸し出している。じっくり何度も聴いていると、なんだかものすごくピュアな心持になってくる。 

     サヨナラからはじまることが たくさんあるんだよ

     本当のことが見えているなら その思いを僕に見せて

 サヨナラの季節は、何かが始まる季節でもある...

 

 

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