Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

「虎に翼」のメインテーマをカスタマイズしてみる

「虎に翼」も、いよいよ最終週。戦前から始まる法律家の話なので時に重い展開もあったが、朝ドラにふさわしく元気がもらえる気持ちの良いドラマだった。

思えば始まったばかりの頃、主人公・寅子のモデルにもなった日本初の女性裁判所長の一生を描いた本「三淵嘉子の生涯」を読んだが、戦前・戦中・戦後を生き抜き戦ってきた彼女の姿は、多少の設定の違いはあるものの、そのままドラマに反映されていた。

シシヤマザキロトスコープ映像とともに流れる米津玄師の主題歌が聴けなくなるのも寂しいが、このドラマを音楽面で大きく支えたのは、何といっても劇中のメインテーマである「You are so amazing」だ。当初はインスト版だけだったが、前半最大の見せ場となった寅子の夫・優三が出征するシーンに向けて英語の歌詞のついたバージョンが流された。そのことに気づいた時の違和感は、戦時中のシーンと英語歌詞が一瞬ミスマッチに感じられたからなのだろう。それでもその少し枯れた男性の優しい歌声は、切ない別れのシーンに見事にはまり、何とも言えない感動を連れてきた。

歌っているのは、ベル・アンド・セバスチャンのボーカル、スチュアート・マードックだと知ったのはその日の夕方で、その意外性に少し驚いた気がする。劇伴音楽を担当していた森優太が、自ら作詞・作曲したこの曲を、今、世界で一番歌ってほしい人は誰だろうと考え、ダメ元で打診したところ、図らずもリモートレコーディングが実現したということだった。

「僕だったら誰に歌ってもらいたいだろう。」その時、ふと思ったことだ。もちろんスチュアート・マードックもよかったけど、頭に浮かんだのは、英国グラスゴー出身のバンド、ブルー・ナイルのフロントマンであるポール・ブキャナンだ。ブルー・ナイルは結成40年にしてアルバムはたった4枚しかリリースしていない超寡作のグループだが、僕の大好きなバンドだ。

ポール・ブキャナンもソロで一枚アルバムを発表している。2012年、56歳の時にリリースしたアルバム『Mid Air』だが、目下、バンド作品も含めて最も新しい作品であり、今まで何度も何度も聴いてきた僕の愛聴盤だ。

このアルバムのポール・ブキャナンの声は、バンドでのアルバムとは違って多少不安定なところもある。まるで深夜にひとりきりでピアノの前に座り、弾き語りするのを一発録りしているような印象だ。横にスコットランド産のモルトウィスキーがグラスに注がれていて、曲の合間に口に含み喉を潤す。心地よい酔いが少しずつ全身を巡り、生み出される音楽も少しずつ全身を包む・・・とまあ、そんな感じだ。(知らんけど)

 

このアルバムを入手した頃、聴き入っていると、頭の中をある懐かしいシーンが巡り始めることがよくあった。それは学生時代のピアノ室でのシーンだ。僕の通った大学の学科棟の地下には、24時間いつでも演奏できるピアノブースが大小含めて10室くらいあった。今では考えられないが、部屋には鍵もなく、昼間でも夜中でも、行きさえすれば部屋に入ることができた。深夜酔っ払ってアパートに帰る気にもなれず、大学に戻ってピアノ室に行ったことが何度あったことだろう。深夜の2時とか3時に行っても、時にピアノやバイオリンの音が聞こえてくる部屋もあったりしたので寂しくは無かった。そんな中で、酔いに任せて気分よくポロポロと弾いてみることもあったが、思い出すのは演奏しているシーンではない。冬の寒い日、狭いピアノ室の隅でピアノカバーにくるまって眠っている、そんなシーンである。

こんなことを言うと何だけど、あの黒いピアノカバーは厚手でシルキーで、とても温かい。恐らく酔いが醒めつつある中で眠くて寒くて禁断のピアノカバーに手を付けたのだろう。気が付くとピアノカバーにくるまって眠っていたようだった。酔いは醒めているがぼーっとした頭に、遠くの部屋で誰かが弾いているピアノの音がうっすら心地よく響き、しばらくは横たわったままじっと聞いていた、そんなシーンだ。(良い子はマネをしないでください。しかし今でもピアノカバーって一般的なのだろうか・・・)

そういえばベル・アンド・セバスチャングラスゴー出身。「グラスゴーの至宝」などと書かれているのを読んだ気もするが、それを言うなら、ブルー・ナイルだって同じだ。この人口60万人ほどのスコットランドの街には、人の心をつかむ音楽の種が散らばっているのかもしれない。

「虎に翼」の最終週。完結に向けて、メインテーマが流れるかどうかはわからないが、頭の中でカスタマイズされたポール・ブキャナンの歌う「You are so amazing」をイメージしながら、長かった物語のエンディングを祝うことにしよう。

 

 

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