Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

CASA

 毎年夏が近づくと、車の中で聴く音楽をあれこれ考え始める。長い休みがあり、車内で音楽を聴く機会が増えるからだ。お盆の帰省で車を使う場合はなおさらで、車内での長い時間をなるだけ快適に過ごしたい。そこに夏らしい快適な音楽は欠かせない。

 これまでそのシチュエーションから、たくさんのボサノバアルバムを聴いてきた。今日紹介のアルバム 『CASA』 は、そんな中でも最初に聴いたとき、「これは夏じゃないよなー」と思った一枚だ。ちょうど今の時期、初秋に最適かもしれない。室内楽を思わせる格調高い硬質なボサノバ・・・いや、「ボサノバ」という表現が適切かどうかすら怪しい。

 

 このアルバムは、坂本龍一が、そのリリース(2001年)の7年前に亡くなったボサノバの生みの親であるアントニオ・カルロス・ジョビンをトリビュートしたもので、晩年のジョビンの音楽をバックで支えたモレレンバウム夫妻との共作である。ジャケットの中の写真にもあるが、生前ジョビンの使っていたスタジオで、ジョビン愛用のピアノを使い録音を行ったということだ。

  ☆ Link:Ryuichi Sakamoto Morelenbaum² Casa (O Grande Amor)

 坂本龍一とボサノバというとちょっと意外に思われるかもしれないが、それまでにも何度かブラジルのミュージシャンとの共演作を聴いていたので、意外な感じはしなかった。ただ、リリースの一報を耳にした時点では、ビートに乗せたエレクトリックなアプローチをするのだろうと想像していたので、実際の音楽を聴いた時はそのギャップに驚いた。それでも一聴すればそんなものは吹き飛んでしまう。コーン紙をゆらす深みのある音楽に、「教授、またやってくれました!」と思ったことを覚えている。

 最初にも書いたが、これはもう室内楽である。まず、ピアノの音が、とてもクラシカルだ。整音やマイクセッティング、残響との関係もあるのだろう。そこにジャキス・モレレンバウムのチェロの音が乗る。これもまた明らかにクラシックの音だと感じる。そうしてつくられた土壌に静かに踏み入る、パウラ・モレレンバウムの、ノンビブラートでも存在感がありながら力みのない声。晩年のジョビンを支えたボサノバボイスだ。納得!

 ピアノの音の選び方には、まるでフランスの印象派音楽を思わせるところもあり、間違いなく教授の音楽になっている。絶妙な抑揚、一音一音に神経を研ぎ澄まして作り上げられた三位一体の音楽。ここでは、ピアノもチェロも歌声も、それぞれが控えめながら主役を演じている。決して「歌と伴奏」の音楽ではない。

 そして全体を貫く静寂感。どこまでも凛としたこの一枚は秋にこそふさわしい。巨匠アントニオ・カルロス・ジョビンへの、深い尊敬の念をいっぱいに詰め込んだこの一枚に、賞賛の花束を送りたい。

 

 

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