Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

夏はホットにセルメンで

 夏バテってわけでもないのに、体がだるい。なんだか喉の調子もよくないし冷房の風で少し寒気を感じるので夏風邪にでもかかり始めているのかな。ということで、昨日は葛根湯を飲んで早々に眠ったので、今日は少しいいかもしれない。実は明日から初めての信州。あまりに暑いので、安曇野上高地あたりで涼しくなってこようなんて思っているのに、もう既に寒気を感じてるようじゃどうしようもないしね。

 夏バテといえば、毎年この時期感じることなんだけど、8月は文章を綴るエネルギーがどうも極端に損なわれるような気がしてならない。振り返ると昨年も一昨年も、真夏は筆不精になり、9月に俄然盛り返す傾向にある。ひょっとしたら文章を考える脳が沸点に達していて、あーとか、うーとかしか出てこないからかもしれない。だからと言って、あー暑い、うーたまらんでは、これまたどうしようもないので、今年は何も考えず、去年の8月のブログを踏襲して、セルメン第二弾で夏風邪を吹き飛ばそうと思う。

 昨年はセルジオ・メンデスの2006年の名盤 『タイムレス』 を紹介したので、今年はその2年後、2008年のこれまた名盤 『モーニング・イン・リオ(原題:encanto)』 をとりあげたい。

 前回の 『タイムレス』 はセルジオ・メンデスの10年ぶりのアルバムであり、しかも4人組のヒップホップグループ、ブラック・アイド・ピーズのウィル・アイ・アムがプロデュースという思ってもみなかった異色の組み合わせで、衝撃も大きかった。それに比べれば 『モーニング・イン・リオ』 は、ずいぶん落ち着いて練られた感じがある。ゲストミュージシャンもたくさん集め、前作同様ウィル・アイ・アムが共同プロデュースになっているが、彼が直接からんでいるのは12曲中4曲だけ。どちらかといえば、『タイムレス』 よりもヒップホップ色が弱まりブラジル色が濃くなっていて、先鋭性は後退したものの僕はこちらの方が好きかもしれない。

 とはいいながら、その中からこれはというものを挙げてみると、やはりウィル・アイ・アムが絡んでいる曲になってしまう。主導権はセルジオ側に戻ったと言っても、彼がいてこその飛躍であることには変わりないということかもしれない。ただ今作は、選曲においても編曲面でもかなりブラジル寄りで、ボサノバの名曲をたくさん取上げたり、旧来の打楽器でのリズムを多用したりと、全体としてブラジリアン・ファンクとも言える雰囲気が漂い、とてもご機嫌なアルバムに仕上がっている。

 まずはアルバムの冒頭を飾る、ブラック・アイド・ピーズファーギーをフィーチャーした、名曲「The Look of Love」だ。高校野球の学校紹介を思い出すようなフェンダー・ローズの音で穏やかに始まるこの曲は、すぐに前作から受け継がれたウィル・アイ・アムのリズミカルでヒップな世界に突入する。ファーギーの声もこの曲にマッチしていて違和感無くリズムに乗り、冒頭から最高の一曲を聴かせてくれている。

 「Funky Bahia」は、いかにもブラジルの暑い海岸で歌い踊っているような、なんともファンキーなカルリーニョス・ブラウンの曲だ。この曲はウィル・アイ・アムとシンガーソングライターのサイーダ・ギャレットをフィーチャーしているが、暑い夏にピッタリのイメージになっている。

 アルバムの最後には、ジョビン作曲のボサノバの名曲「Agua De Beber」を、ウィル・アイ・アムのラップに加えセルジオ・メンデスと奥様のグラシーニャ・レポラーセのボーカルで締めている。『タイムレス』 以来のお互いの信頼関係で築き上げた新しい音楽の世界を一旦締めくくるような、少し感慨深い一曲だ。

 

 ところでこのアルバムのリリースされた2008年は、ボサノバが生まれて50年目の年だった。ボサノバはアントニオ・カルロス・ジョビンがつくり、ジョアン・ジルベルトが歌った「Chega de Saudade(想いあふれて)」から始まったといわれているが、それがリリースされたのが1958年。この年はそれからちょうど50年目にあたる年だった。ボサノバの名曲がふんだんに盛込まれているのは、そのことを意識した仕掛けだったのだろう。

 もう一つの特別な仕掛けは、一曲目の「The Look of Love」にある。セルジオ・メンデスは、1966年にSergio Mendes & Brasil’66 を結成し、ブラジル音楽をポピュラー音楽の世界に広めて行ったが、この曲は、1968年に彼らが演奏し全米4位となった曲である。ボーカルにラニ・ホールを擁したこのグループは、「マシュケ・ナ・ダ」やこの曲のような大ヒットを飛ばしたが、それはラニ・ホールあってこそだっただろう。しかしラニ・ホールは5年後の1970年に突如退団する。その後を担ったのが、今のセルジオ・メンデスの奥様のグラシーニャ・レポラーセだった。

 ラニ・ホールは、その後所属レコード会社の社長でもあったトランペット奏者のハープ・アルバートと結婚し、二人で今も音楽を続けている。そんな二人が、ジョビンの名曲「Dreamer」で参加し、本当に久々にセルジオ・メンデスと競演しているのも興味深いが、そのことが布石となって、最初のファーギーの歌う「The Look of Love」に合わせて、かつてのBrasil’66時代のラニ・ホールの魅力的な歌声がよみがえり、うっすら重なる仕掛けになっているのだ。

 

 ところで、今やスタンダードとなって、ジャズの世界でも歌い継がれている「The Look of Love」だが、いまこのタイトルを聞いて、僕の頭に最初に浮かんでくるのは、2002年『Live in Paris』でのダイアナ・クラールの演奏だ。

 あのハスキーボイスでしっとり歌うこの曲は、もはや夏の音楽ではなくなっている。セルジオ・メンデスは明日から車の中でたっぷり聴くので、今日はダイアナ・クラールの「The Look of Love」を聴きながら眠ることにしようと思ったんだけど、ホットじゃなくって、こんなにもクールな「The Look of Love」を聴いていると、なんだかまた背中のあたりから寒気がぶり返しそうで...うーん、今日も葛根湯飲んどこうっと。

 

<おまけ>

 音楽は同じなのですが、僕はこのプロモーションビデオが異常に好きなのです。

 そうそう、これは正確には同名タイトルのダイアナ・クラールのアルバムの音楽です。

 

 

<関連アルバム>

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