Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

完結!「Two For The Road」

 何かの加減で、一度聴いた曲や繰り返し聴いたメロディーの断片が耳から離れなくなることがある。無心で何かをしている時やボーっとしている時に、気がつけばメロディーが耳鳴りのように頭の中を駆け巡っていたり、無意識に口ずさんでいたり、あるいは、夢の中で流れ続けたり・・・

 メロディー自体に要因がある場合もあれば、それを聴いたときのシチュエーションや心象が影響していることもあるのだろう。これがCMであれば「大成功」ということなんだろうな。私見で言えば、「さ~らりとした梅酒~」や「たらこ、たらこ、たっぷりたらこ~」などは結構「来てた」気がする。今、後ろ向きに話題の消費者金融はそういう意味では優秀な(?)CMをたくさん作っていたよなぁ。そういえば、かつてテレビの特番で見た、あの世間を騒がせた新興宗教教祖の選挙演説シーン、教祖の着ぐるみが踊る横で自らマイクを持ってうたう歌のフレーズが耳鳴りのように鳴りはじめ、うなされかけた経験もあったなー。ん~・・・

 ヘンリー・マンシーニ作曲、「トゥー・フォー・ザ・ロード」のメロディーが同じように耳から離れなくなったのは、パット・メセニー (g) とチャーリー・ヘイデン (b) のデュオアルバム 『ミズーリの空高く』 でインパクトを受けてからだった。もう10年以上前の話だ。直後に欧州出張があり、激しい時差ボケによって眠いのに眠れないベッドの中、耳の奥の方でこの曲が鳴り続けて、少し困ったことを思い出す。

 このアルバムは、同じ米国のミズーリ州を故郷に持ち、それぞれの音楽性を深く尊敬し合う二人が、長年温めてきたアイデアを実現したものだ。お互いのオリジナルも含め、このフォーマットでの表現にふさわしい楽曲を持ち寄り、思い入れたっぷりに創りあげている。ある意味パーソナルでありながら、親しみのわく一枚、本当にじんわりと滋養が染み出してくるようなアルバムだ。

 この4曲目に入っている「トゥー・フォー・ザ・ロード」のメロディーには初めて聴いたときから取りつかれてしまった。いきなり感情の中腹あたりから始まるロマンティックなメロディーは、不安定な転調をはさんでもとの安定を取り戻す流れで進み、その音楽の背後にある物語性を深く感じさせることに成功している。

 この魅力的な音楽が耳から離れないことに気付いたある日、常に気になる音楽家であるデイブ・グルーシンがまさにそのままのタイトルアルバム 『Two For The Road』 を出したと知り、直ぐに手に入れた。 

 ヘンリー・マンシーニの作品集であるこのアルバムは、メセニー/ヘイデンのデュオアルバムとは大きく異なり、ストリングスやホーンも入った華やかな一枚だ。ここでの「トゥー・フォー・ザ・ロード」は、デイブ・グルーシンのリリカルなソロピアノから始まり、ベース、ドラムのトリオフォーマットの上にストリングスが乗ってくる洗練された演奏だ。トミー・リピューマのプロデュースでデイブ・グルーシンのアレンジとなると、押して知るべし。完璧なオケ・アレンジの作品に仕上がっている。この演奏を聴けば、この曲が映画音楽であったことを再認識する、というものだ。

 実は僕は、その事実を長い間知らなかった。日本盤のCDだと解説が入っていたりするので、音楽と共に周辺の知識を得ることができる場合もあるが、僕は基本的にCDは輸入盤を最優先で買うため、そのあたりが手薄になる。しかも、しかもである。あのオードリー・ヘップバーンの主演作品の音楽だというのだから、迂闊だった。

 考えてみれば、ヘンリー・マンシーニといえば、映画 「ティファニーで朝食を」で歌われた「ムーンリバー」や「シャレード」の音楽を手がけているのだから自然の流れでもある。映画のタイトルはこの楽曲と同じ「Two For The Road」。邦題は「いつも2人で」だ。

 ヘップバーンのプチ・ファンとしては、自分自身の知識の枠から欠落していたこの作品をぜひ観てみたいとずっと思っていた。そして、先日、たまたま近所のヤマダ電機を訪れた際に、目に飛び込んできた「いつも2人で」のDVDをついに購入、苦節10年、昨晩やっと観ることができました!チャンチャン。

 で、どうだったか。これは人それぞれかな。僕にとっては非常に味わい深い映画で、また観たい気分だ。ただ、地味な映画であることは確かだ。結婚12年目の倦怠期の中にある夫婦が、フランスの田園地帯を自動車旅行する中で、過去同じルートを幾度となく旅した回想と重ね合わせながら、再生への道を模索していく話で、テーマとしても限定的である。編集も極めて凝っていて、「この場面はいつの話か」ということは、ヘップバーンの髪型と乗っている車の車種で見分けることになる。そうした背景から、他の作品と比べ少しトーンが下がってしまったのではないだろうかと推測する。

 さて、件の主題曲はというと・・・いやー活躍していましたよ。八面六臂。その情景や感情を表現する大きな役割をこの曲は果たしていて、楽曲自体の持つ物語性の真髄を理解した気がした。

 オードリー・ヘップバーンはこの作品の撮影時点で37歳、この映画とほぼ同様に離婚の危機にあり子育ての最中でもあった。そして、この直後から、子育てに専念するために長い休みに入る。そういう意味では彼女の最盛期・最終年の作品であり、私生活の一端を表現した作品だとも言えるのだ。若い頃の作品しか見ていなかった僕にとっては、この作品のヘップバーンの「衰え」は少し寂しくはあったのだけれど、翻ってわが身を思えば・・・ま、あまり考えないようにしましょう。

 

<追記>

 今回わかったのだけど、デイブ・グルーシンのアルバム「Two For The Road」は日本盤タイトルが「酒とバラの日々 ~ヘンリー・マンシーニに捧ぐ」で、「Two For The Road」は消えてました。やっぱり日本では、この映画はメジャーではないんだなー。

 

 

<関連アルバム>

 

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