Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

すぐき的一枚 「UTAU」に酔う

 正月休みも終わり、先週、仕事もスタートしたが、未だ年始のしっぽを引き摺っている。休み明け以降、寒波はここ大阪にも居座っているが、緩みきった体に少しずつネジを締めていくにはちょうどいい。栄養価の高い食べ物とアルコールを無条件に受け入れてきた体にリズムを取り戻すべく、少しの間手にしなかった時計とも、また親しくなった。胃の調子も戻し、少し増えた体重も戻して、ピリッと一年をスタートしたいところだが、まだまだスッキリは行かない。本格的な始動は来週からになりそうだ。

 年末にお正月の食材を買う中で、漬物の専門店で目に付いたものを何種類か買っておいたが、そこで買った"すぐき"の漬物が休み明けの食傷気味の体にぴったりきた。"すぐき"のすっぱさは、他のやわな漬物とは一線を画している。これはラブレ菌とも言われる植物乳酸菌のせいで、"すぐき"は現代では珍しい乳酸菌漬物であり、すぐき菜と塩だけで造られる唯一の自然漬物でもある。

 ちなみに、このラブレ菌はけっこう強力で、毎日一切れのすぐきの漬物を食べるだけで、腸内環境がかなり向上し、おなかのポッコリ防止に効果があるとかないとか...興味のある方はお試しあれ!

 さて、音楽の方も年末年始は時間があったので、購入しておざなりになっていたアルバムやDVD、録りためた映像を聴いたり観たりでかなり食傷気味だ。このあたりで「すぐき的」一枚をじっくり聴きたくて、11月に発売されて直ぐに購入し既に何度か聴いていた、大貫妙子坂本龍一の共同アルバム 『UTAU』 を手に取った。 

 このアルバムには大貫妙子の歌と坂本龍一のピアノ以外何もない。一曲目の「美貌の青空」は、イントロも無くいきなり歌とピアノが同時に始まる。お~、大貫妙子の世界だ、この音の飛び方と納まり方、と思って見ると、坂本の楽曲だった。僕の中で区分けされていた二人の境界線がいきなりあやふやになる。

 収められている11曲の楽曲を分類してみた。今回のための二人の書き下ろしが1曲、坂本のインスト曲に大貫が歌詞をつけた曲が4曲、坂本の楽曲が2曲、大貫の曲が3曲、唱歌が1曲である。ただしライナーノーツによれば、この坂本の曲も大貫の曲も、それぞれ過去の経緯も含め、思いを持って選び編曲されているようだ。即ち、どの楽曲もお互いの音楽的な相互関係の中で醸成された曲なのだ。

 この二人は20代前半から現在まで、かれこれ35年間ずっと関わり続けている。大貫妙子のソロデビュー前後から、当時、東京芸大の学生だった坂本龍一は、ライブではピアノ伴奏を行い、アルバムでは編曲・演奏を担い、その制作に大きく関わってきた。坂本龍一が自身のファーストアルバムを出す、さらに前の話だ。年齢もかなり近い(2つちがい)。

 今では、それぞれ唯一無二の世界を創り上げている二人のアーティストが、一体になったらどちらに傾くのだろう。最初はそんなことも考えたが、それは愚問だった。35年はダテじゃない。お互い理解し尽くし、リスペクトし合っている。大貫には今まで以上の高揚を感じるし、坂本は確実に自分の世界を展開しながらも、伴奏を十分に意識した音の置き方に徹している。そうした演奏を聴きながら、この音楽は間違いなく大貫妙子のものであるし、坂本龍一のものであることに気付く。そして、この二人の音楽は、同じ水系に属する水の流れの中にあることに思い至るのだ。

 しかし、これほどまでに凛として、研ぎ澄まされた演奏にはそうは出会えない。UTAU...。歌う...。うたっているのは大貫だけではない。坂本もピアノで歌う。しかし決してぶつからない。テンポや乗り、入りや強弱も含め、阿吽の呼吸で歌い合う。その裏には滔々と流れる音楽家としての年月が、楔のように打ち込まれている。

 僕たちは幸福だと思う。同時代、最前線に生きた真のアーティスト達が、消え去ることなく成熟しつつ、「今」の世界を見せ続けてくれる喜び。それをリアルタイムで体現できるのだから。

 一月の冷気を肌に感じながらこの音楽を聴いていると、自然と背筋が伸びていることに気付いた。何かがふつふつと湧き上がってきて、明日からまたがんばろう、という気分になっている。きっとそれは、発信する側も同じなんだろうな。それこそが「UTAU」ことの意味なのかもしれないね。

 

<追記>

 このアルバムは、1CD盤、2CD盤がありますが、2CD盤をおすすめします。2枚目は、ほぼ同楽曲の坂本龍一によるインスト盤(特典入り)ですが、全曲インスト用の別アレンジ。これだけで最高の坂本龍一ソロアルバムになってます。

 

 

<関連アルバム>

UTAU(2枚組)

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