Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

京都・美山を訪ねる

 先週木曜日の夜の話。帰宅した後、「明日は歓迎会だから電車で行く」と、うちの奥さんに伝えていた。その後、深夜にも関わらず玄関を開け閉めする気配が...寝る前に、「どうしたの?」と聞くと、カーナビに行き先入力をしてきた、という。何を?「京都の美山(みやま)。土曜日は晴れるんだって。梅雨なのに。」と怪しい笑顔。

 あ、来たな!と思った。そういえば、数日前から「京都の郊外に行こう!」などという怪しいげなタイトルの本を読んでいたような...実力行使ってわけですね。参りました!明日は深酒をせずに帰って来い、土曜日に仕事を入れるなんてもってのほか、と言ってるわけですね。一応、「明日にならないとわからないけど...」とささやかな抵抗を示し、もごもご言いながら眠ったが、金曜日は2次会は無いな、と納得した次第。

 美山には、以前仕事で訪れたことがあった。京都駅から山陰本線に乗り、最寄り駅までごとごとと小一時間。そこから関係先の面々とタクシーに分乗して一時間以上山間を走り、ようやく目的地に到着したことを思い出す。あの時は風景など眺めている余裕はなかった。とんぼ返りだったが、「遠いところ」というイメージだけが残っていた。

 出発は9時半頃。新しくできた第2京阪道と京都縦貫道をフルに使い、途中一般道を走った桂近辺が多少混んではいたものの2時間程度で周辺に到着した。(ちなみに帰りはもう少しかかりました。)

 いくつか行きたいところをチェックしていたらしい。しかし街中とは勝手がちがう。地図と住所だけでは、なかなか見つからない。最初からつまづいてしまったので、とりあえずは美山観光協会のある「道の駅ふれあい広場」に向かう。お昼が近づいている時間ということもあるのか、はたまたその横にある「美山牛乳」の工場直販のソフトクリームやジェラートを食べるためなのか、すごい数のバイク、バイク、バイク...ビンテージ・バイクからサイドカーまでたくさん停まっている。どうやらツーリングの休憩拠点になっているらしい。「車」では、少しだけ肩身が狭い感じだ。

 そこで地図をもらい、彼女の最もお目当てにしているガーデン・カフェ&ギャラリー「はーばりすとくらぶ・美山」への道を担当の人に尋ねる。そこはこの近くだそうだが、細い道を複雑に曲がり、さらに高台にのぼったあたり、との事。食事はできそうに無いので最後に訪れることにして、まずはこの美山を象徴する「かやぶきの里」を目指そうということになった。

 途中、山間の道沿いに、これも彼女のチェックしていた手作りハム・ソーセージ工房「美山おもしろ農民倶楽部」があり車を止める。スキンヘッドのご主人に直接給仕していただいた万願寺唐辛子入りのハムや、鹿肉など数種類のソーセージとコーヒー・パンで軽く昼食。目の前に広がる、手入れの行き届いた山の木々を眺めながらのひと時は、ほんとリラックスできました。ごちそうさま。

 その裏手にある「工房風舎」の吹きガラスがまたよかった。美山の地で活動するガラス作家の方のギャラリーでお店には奥様がいらした。光にこだわったガラス作品はもちろんのこと、そこでガラス皿を乗せて花を飾っていた鉄の飾り台が気になる。それも地元の鉄の作家さんのものらしい。それに合うガラス皿と、小さなオイルランプを選び、購入。いい感じでした。

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 さて、少しおなかの方も満ち足りて、いざ目的地へ。程なく右手にたくさんの車とバイクの止まった駐車スペースといくつかのショップが。「かやぶきの里」駐車場とある。とりあえず、スペースを探し車を入れて、目を道を隔てた山の方に向けると......

 いやー、こんなところに、こんな場所があったんだ...家からたった2時間で...と、ちょっと感動。自然のアロマが漂う由良川沿いのこの一帯。実際に人の暮らしている200棟近い茅葺きの民家の周りには、日本の正しく懐かしい原風景が残っている。これだけの地域を維持していくのは大変なことだろう。たくさんの費用と知恵と忍耐が必要に違いない。それぞれの家族の事情も変化していくことを考えれば、並大抵のことではないと推察する。白川郷の合掌造り集落は世界遺産にも登録され、つとに有名だが、それに勝るとも劣らない、もっとオーソドックスな日本の農村の原風景だと思う。やはり文化庁の「重要伝統的建造物群保存地区」に指定されているとの事。当然ですね。

 快適な気温と湿度の中で、日の光を燦燦と浴びながら茅葺屋根の村落を歩く。一昨日までの雨で精気を帯びた緑と草花の中、なんだか懐かしい思いに包まれていることに気付く。家屋こそ違え、僕たちの子供の頃は、まだこうした田舎道が随所にあった。今は、日本中どこに行っても画一的な開発が成され、そうした風景も少なくなっている。それが悪いことだ、というつもりはない。生活をしていく人間にとって、「より便利に、より快適に」を望むのは当たり前のことだと思う。しかし日本が、そして世界が小さく標準化されていく時代に入って、やはり最後に助けてくれるのは、自分自身のアイデンティティーであり、「らしさ」なのだろう。「独自性をよりよい形でいかに残すか、いかに復元させるのか」は、恐らくこれからの社会の大きなテーマになっていくのではないだろうか。

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 日本の原風景を堪能したあとは、彼女の最大のお目当ての場所へ。「はーばーりすとくらぶ・美山」はアウトドアの達人にしてハーブ研究家のご主人が30年前に移り住み、手作りでログハウスを建てたことに端を発している。ログハウスの外は欧州を思わせるような庭に様々なハーブが植えられていて、小さな鉢に入ったものには、ちゃんと値札が付いている。ログハウスの中は、カフェとギャラリーになっているが、キッチンは奥様と娘さんがきりもりしていて、ご主人は4台ほどしかない駐車場の管理から、給仕、お客さんとの会話等、大忙し。ログハウスの中には靴を脱いで入るので、まるで個人の別荘にお邪魔しているような感覚になる。

 中はこのご主人の多彩さをうかがい知ることができる様々なもので一杯。僕たちのテーブルの横には、グランドピアノとTokaiのハープシコードが蓋を閉められ転がっている。壁面の棚には古い書物が無造作に置かれ、壁には古い木のスキー板や自転車。ギャラリーにはご主人の手による様々な形の木製の椅子が並び売られている。ジャムや調味料、陶器や小物を置いている一室もある。

 外のデッキには自然の中でお茶を飲める場所や、ツリーハウスのように一段高くなったスペースもあり、そこに座って過ごす時間は、本当に気持ちよかった。また、花が一杯咲いている頃に訪れたい、そんな気分にさせてくれる場所だった。

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 さて、今日の一枚。もうこれしかないだろう。日本の正しい原風景を眺めながら流れくる音楽。その一曲を冒頭に頂く一枚。「新日本紀行冨田勲の音楽」だ。

 ティンパニのトリルとホルンのフォルテッシモのイントロで一気に懐かしすぎる世界に引きずり込まれる。すかさず流れ込んでくる弦のメロディーとコンバスのピッツィカート。拍子木の音もこだまし、山間の村を思い起こさせる。昔懐かしいNHKのテレビ番組「新日本紀行」のテーマ曲だ。とにかく、今回の茅葺屋根の集落地帯そのものの音楽、といってもいいだろう。最近また、「新日本紀行ふたたび」という形で番組が再開したと聞く。音楽はかつてのものに歌詞がついているらしい。聞いてみたいような、みたくないような...

 このアルバムは、1994年の発売。シンセサイザー奏者・冨田勲がテレビや映画のために書いた曲をフル・オーケストラの作品集として録音しなおしたものだ。「新日本紀行」をはじめ「ジャングル大帝」「リボンの騎士」、他にも映画や大河ドラマのテーマ曲など、懐かしい人にはひどく懐かしい一枚だ。

 演奏は東京交響楽団。指揮は大友直人。全て新録音である。個人的には大友さんがひどく懐かしい。大学4年のときの僕の学生時代最後の定期演奏会は、まだNHK交響楽団の研究生だった大友さんを東京から招聘して行った。僕たちより2,3歳年上だったと思う。少し上の世代ではあったが、合宿や練習の後での宴会でも、決して我々のように乱れることなくスマートに対処されるのをみて、大人だなあ、と思った。まだ学生っぽさが残りながらもダイナミックで格好いい彼の指揮は、将来性・スター性を感じさせる大きなものだった。今や、東京交響楽団や京都交響楽団の常任指揮者で大活躍をされていて、とてもうれしい。

 久しぶりの自然の中で過ごした一日は、ここのところ忙しかった日常を忘れさせてくれ、さらに明日からの元気の元を注入してもらったようにも感じる。たった2時間でこんな場所に行けるなんて...場所のことだけではなく、まだまだ身近にも未開拓の素晴らしい世界が広がっているような気がして、さび付きかけているアンテナをもう一度磨こうかと、今思いつつある。

 

 

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