月を見ている。
白熱球のように白っぽく輝く満ちた月が、
静かな空に頼りなく置かれている。
その明るさに星は存在感を押さえられ、
月はますます孤独に輝く。
どこからか薄い雲が忍び寄り月を隠そうとする。
しかし今日の月にそんなものは通用しない。
何も無かったかのように月はその形状を保ち続ける。
一昨日、歩きながら見た、低空での赤味がかった大きな月も、
昨日、車の中から見た、気がつけばそこにいるオレンジ色の不安定な月も、
全く同じ月である。
大きな黄色い月と小さくいびつな緑の月。
二つの月が同時に輝く世界の物語は、一連の喧騒の中で終焉をむかえた。
現実の世界には月は一つだけだ。
その満ち欠けは人の命と微妙に連動している。
満月に生まれ、新月に死ぬ。
自然が何よりも大きく人を支配していた時代。
そんな太古の時代から、人はこの空の営みを見あげたのだろう。
今、僕が見ている月と全く同じ月を、
1000年前の僕は見ていたはずだ。
そして1000年後の僕もまた、
同じ月を同じように見あげるのだろう。
悠久の彼方へ飛びゆく魂の行方をたどりながら、
気の遠くなるような世界に思いを馳せれば、
何故か今の営みがいとしく思える。
ベランダの手すりから伝わる冷たい感触が戻り、
月の表面の模様に意識が戻る。
月を見ている自分に現実感が帰ってくる。
ずっと月を見ている。
ひとり見ているその側に、暖かな気配がうっすら漂う。
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