Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

再会

 昨日の土曜日、懐かしい人にお会いした。23歳で学生生活を終了し、今の会社に仕事の場を得て以来、十数年に渡って僕の直属の上司だったOさんだ。当時一緒に仕事をしていた2人の元同僚も含め、4人でお昼に待ち合わせをして、ゆっくりと会食をした。

 16年ぶりの再会になるだろうか。Oさんも当時は40代半ばだったはずで、僕たちとは10歳近く離れていたが、その姿は日に焼けて若々しく、以前とほとんど変わっていなかった。4人ともそんな感じだったので、待ち合わせ場所でお互い顔を見合わせて笑ってしまった。なんだかいきなり20年近く時間が遡って、さてこのままみんなで出張にでも行くんだっけ、という雰囲気だったしね。

 Oさんはちょっと変わった人だったが、当時僕たちが寄りかかることのできる唯一の支柱でもあった。技術力、企画力は当時の事業体の中でもピカ一で、自らが正しいと判断した方向性を実現するための実行力、推進力は強力だった。多少波風が立とうが、天地がひっくり返ろうが、正しいことは正しい。誰を相手にファイト状態に持ち込んででも実現してやる!という気概に満ちていた。

 そんなある意味強力な傘の下、僕たちは自らの役割を、変な横槍が入ることもなく、着実にこなしていけた。あくまでも厳しい上司だったが、常に、今自分たちがやるべき事に対し、私心無く真摯に向き合っている人であり、だからこそ信頼できる上司だった。

 ちょうど阪神・淡路大震災の翌年、その少し前から技術的に高度な挑戦をしていたのだが、その結果が見え始めた頃、突然Oさんから、自分は近々仕事を辞めたいと思っている、と打ち明けられた。『自分は、実質的に仕事ができるのは40年程度だと考えていて、20年あればその世界でひとつのことをやり遂げることができると思っている。この会社に入って約20年、好きなことを思う存分やらせてもらった。後の20年はもうひとつの自分のやりたかったことに挑戦したい』、というような趣旨だった。

 具体的には、次の20年は沖縄本島からかなり離れたある島に家族で移住して、環境保護に関わっていきたいということだった。普通だったら、そんな夢のような話...となるのだが、それは一般論。この人に限っては、口に出す限りは夢なんかじゃない。あー、本気なんだな、既に色々動いてるんだろうな、と思わせた。むしろその瞬間から問題は僕たちの側に移ったと言える。僕自身、当時関わっていた事業に大きな変化の兆しを感じ始めていた。そういう中で、Oさんという支柱を失って、はたして僕たちは自ら進むべき道を定め、課題を乗り越え、遅滞なく前進していくことができるのだろうか...それは恐らくみんなが感じていた不安だったろう。

 程なくしてOさんは会社を去った。そしてこの16年間、まさに打ち明けられた通りの新しい人生を送ってこられたようだ。一方の僕たちはどうだったのか。昨日の話題は、もっぱらそこからの、Oさんの知らない、波乱万丈のストーリーの「封切り公開」だったわけだが...この厳しい時代を渡り歩いた僕たちのストーリーは、それまでの夢のある平和な時代のものとは少し違っていたかも知れない。でも僕たちも、既にそれを笑って語れる場所まで来ていた。その時々の壮絶な思いを、時は少しずつ洗い流してくれる。後には、ちょっといい思い出だけが、少しだけ色づいて浮き出てくるのだ。

 

 さて、今日の一枚は、そういう状態の中で不安な毎日を送っていた1996年の終り頃、僕がこころ動かされた音楽ということで探してみた。で、取り出してきたアルバムがこれ。YEN TOWN BAND の 『MONTAGE』 だ。

 これは1996年に公開された岩井俊二監督の映画「スワロウテイル」の劇中に登場する架空バンド「Yen Town Band」名義の、サウンドトラックも兼ねた企画盤で、ボーカルは映画でも主役を演じているCHARAだ。実はこの映画そのものは、僕は未だ観ていない。そんな中でこのアルバムをいち早く入手したのは、当時ミュージックTVで耳にした、この映画の様々な場面にかぶせたCHARAの歌う音楽世界に興味を持ったからだった。その後何度も聴いたテーマ曲の「Swallowtail Butterfly ~あいのうた~」は僕の大好きな曲になり、このアルバムも僕の愛聴盤になった。

 さらには、その翌年発売されたCHARAのアルバム 『Junior Sweet』 で、完全に彼女の世界にはまってしまったのだった。

 このアルバムは、楽曲ごとに時代を代表するプロデューサー達をとっかえひっかえして、全方位CHARAの魅力が「これでもか!」と言わんばかりに詰まった、カラフルで贅沢な一枚、まさしく時代に乗った名盤だ。その中で敢えて3曲、気になる曲を挙げるとすれば、やはりCHARA自身が作詞・作曲した冒頭の3曲だろうか。

 1曲目「ミルク」は、英国のソウル・シンガー、デズリーのヒットナンバー「You gotta be」が好きだったCHARA自身が、その曲をプロデュースした音楽プロデューサー、アシュリー・イングラム氏を招いて作り上げた曲で、冒頭からこのアルバムへの期待を盛り上げてくれる、優しい楽曲だ。

 2曲目「やさしい気持ち」は、まさにジャケットそのものの世界を伝えてくれる愛情あふれる曲。結婚、出産、映画出演と忙しい生活の中で作り上げた幸せいっぱいの曲だ。そのお相手である当時の夫、俳優の浅野忠信氏は、アルバムのジャケットで奥ゆかしく左手だけ登場している。

 3曲目「しましまのバンビ」は、当時最先端、売り出し中のDJ、テイ・トウワをプロデュースに迎えた彼女ならではの曲。そのカラフルな音は、触ればシュッと切れそうな凝ったアレンジながら、ある意味非常に彼女らしい楽曲で、ちょっと笑顔になれる。

 そうそう、せめてもう一曲、タイトル曲も紹介しておこう。9曲目「Junior Sweet」だ。作曲とプロデュースに大沢伸一氏を迎え、ウーリッツァーのエレピで静かに始まるこの曲は、その後のダンサブルな展開の上に、CHARAの声が気持ちよく乗って、何とも心地いい。

 

 久々に聴くアルバム 『Junior Sweet』 にちょっといい気分になってしまったが、少しだけ話を戻そう。今回の16年ぶりの再会は、Oさんが最近頻繁に関西にある奥さんの実家に戻っていることで実現した。Oさん自身は、既にご両親共に亡くされていて、唯一いらっしゃる義理のお父様のために時々戻ってこなければならない状況らしい。そういう中で、そろそろ潮時かな、と話されていた。ちょっと早いけど、帰ってこようかな、と。

 もう年金をもらう年になったとお聞きして、仮にあのまま一緒に働いていても、定年を迎えられたんだな、なんて思ったとき、その日初めて妙に時間の経過をリアルに感じてしまった。うーん、人それぞれの道、本当に色々ありますね。

 そうそう、そういえば、最初のYen Town Bandのアルバムには、最後に何故かフランク・シナトラの「マイ・ウェイ」のカバーが入っている。何でまた「マイ・ウェイ」なの?って思ってしまうが、映画ではこの曲をCHARAがバンドをバックに飛び入りで歌ったことが、「Yen Town Band」の結成につながっているようだ。そこには何か深い意味があるのかもしれない。で、ちょっと取って付けたみたいだけど、まさに今日の話題にピッタリの曲かな... うーん、何はともあれ、締めということで...

 

 

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