Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

とっても人間的なカーナビで奈良町へ

 先週の日曜日のこと。前夜少し遅かったのだが、その日は朝8時にすっきり目が覚めた。決して朝早く、という意味ではなくて、僕にとってはこの時間まで寝られたって事がポイントだ。あまり大きな声では言えないんだけど、最近は前日遅くなっても、早朝ほぼ同時間に目が覚めてしまうという悲しい兆候が極まっていて、特に土曜日などは平日以上に寝不足の一日を送ったりしてしまうんだけど....まあ、そんなことはどうでもいい。

 とにかく、10月に入ってずっと首の回らない状態が続いていて、ようやく少しだけ安堵できる一日を迎えることができたのだろう。緊張も解けて、ゆっくり眠れた気がした。既に、「いつまで寝てんねん」と言わんばかりの快晴の空に、いつか見たような元気な太陽が輝いている。うっ...まぶしい...とはいっても夏のような不快なギラギラ感はなく、朝の冷気が立ち込める中を、突き進む光の束が見えるような清清しさだった。

 そういえば、車を買い替えて既に一ヶ月近くだが、まだ通勤以外でほとんど走っていないことに気付いた。だからと言って、朝早くから「高速に乗って遠出のドライブ」って程、元気でもない。更にいえば、ここの所、歩くこともめっきり少なくなっている。よ~し、歩こう。少し車を走らせて、そのあと散歩。そうだな、久々に奈良にでも行ってみようか。古い町並みの残る奈良町のあたりを散策して、町家カフェでお昼、それからお茶、なんてのもいいなあ、と朝食を食べながら協議。あちらに10時すぎには着くように出発しよう、ってことにして、早速準備を始めた。

 前回奈良町を歩いたのは、4年ほど前。まだ車にカーナビがついていなかったので、地図を見ながら、奈良ホテル裏のならまちセンター駐車場にたどり着いたものだが、当時の車は17年間乗った4輪駆動車だった。マニュアルミッションで、一度も故障せず、手放すには愛着がありすぎたのだが、エコカー補助金の魅力には勝てず、その直後に乗り換えたのだった。

 乗り換えた車は、僕にとっては初めての普通の車で、初のオートマ車。色はその車種のイメージカラーの赤で、乗るほどに走るのが楽しくなる車だった。カーナビも初めて取り付けた。地デジチューナー入りのハードディスクナビで、使い始めてすぐ、その便利さ、快適さを遅まきながら実感した。当時は通勤に使うつもりも無かったので、躊躇無く赤にしたのだが、そのうち通勤に使い始め、少し抵抗感もあったかな。ということで、今回車検に合わせて、ディーラーの口車に乗り、短期買い替えを決行。色は、黒い縁取りがいい感じのキャンディホワイトだ。ディーラーの話では、カラフルな色が受けていた3年前と違って、震災以降ホワイトとブラックが主流になっているらしい。なるほど~、鈍感な僕でも場違い感を感じるわけだ。

 カーナビは以前のものを乗せ代えたのだが、今やスマホと並んで、それ無しではどうにも困ってしまう必需品になっている。しかし毎回感じるんだけど...ホント、カーナビはえらい!行きは岩船街道を経由して、阪奈道路奈良公園の手前まで突っ切り、後はカーナビの案内のまま、ひょいひょいと何のストレスも無くお目当ての駐車場に到着。本当に便利だ。

 奈良町では5,6時間。歩き回り、お店を冷やかし、お昼を食べ、お茶を飲み、買い物をし、人と話し...以前よりかなり増えた、町屋を改造したようなカフェやお店は、美味しくて、雰囲気があって、のんびりしていて。適度な人波とゆるーい感じがとてもリラックスさせてくれた。

 ところで帰り道のこと。一方通行の関係もあって、裏道からスタートし、見慣れぬ道をカーナビの言うままにズンズン進んでいたのだが、間違えて案内された道より一本手前の細い道に入ってしまった。まあいいや、そのうち軌道修正してくれるだろうと、しばらくは当てずっぽうで適当に進んでいたんだけど、ナビ子(いつの間にやら名前が。。。)の素晴らしいところは、こういう運転者の挑発にも乗らず、いつも冷静な声で、正しい道に誘導してくれるところなのだ。うん、えらい!

 ところが、その日のナビ子はいつもと様子が違っていた。そういえば、出発前に裏機能の「ヒューマン・モード」に設定していたのだった。何度か案内を無視して進んでいると、軌道修正を考える時間が少しずつ長くなっていった。そしてそのうち、ナビ子の案内の声が、いつもの明るい声から、不機嫌な感じの声になっていって、時々ため息をついたりするのだ。挙句の果てには、案内の通りに曲がらないと、舌打ちをし始め、ため口をきき始める。え~、なに?このカーナビ!

 しかしナビ子の機嫌は納まらない。僕も仕方なくご機嫌を取るため案内通りに進むようにしたんだけど、こんな道、対向車が来ても離合できないよ~、というような、近所の人しか知らないような道にどんどん入っていく。これは嫌がらせだな。うん、間違いない。ナビ子のやつ、僕があまりにも従わないものだから、遂に実力行使に出たのかな。しかし、なんて人間的なカーナビなんだろう...

 ...な~んて、そんなことあるわけないよね。よく聞けばナビ子の声はいつもと変わらない声だし、「ヒューマンモード」じゃなくて、「最短距離モード」を選んでいたのでした!でもそういう人間的なカーナビ、あったら結構面白いかもね。

 

 さて、今日の一枚。奈良町を歩いていて、おいしいコーヒーが飲みたくなり、「ボリクコーヒー」ってカフェに入ったときのこと。(あ、ここのモンブラン、最高でした!)トイレに向かう手前の棚に、これ売り物?という感じで積んであるCDの山を見つけた。タイトルは 『Coffee & Music – Drip for Smile』 。よく見ると、Miyuki Hatakeyama & Ryuhei Koike とある。なんと、今年の2月18日の僕のブログでも紹介した、畠山美由紀の新作のようだ。そのときのコンサートでもギターを弾いていた小池龍平とのデュオアルバムで、カフェ・ミュージックの決定版と書かれている。カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュのオーナー堀内隆志氏が企画したアルバムのようで、コーヒーにちなんだ名曲のカバーに加え、書き下ろしの新曲4曲も入っていて、その関係もありこのお店でも売られていたようだ。もちろん迷わず購入したんだけど、残念ながら、これが今日の一枚ではない。(ていうか、実はまだあまり聴いてないのです...でも、いいかんじですよ。)

 今日の一枚はこちら。そのコンサートでもピアノを弾いていた中島ノブユキが昨年リリースしたアルバム 『フクモリ pianona』 にしよう。

 “フクモリ”は、東京の東神田にあるカフェ兼定食屋の名前で、“pianona”は、そのお店で中島氏が毎月行っているマンスリーライブの名前だ。このお店、行ったことは無いが、どう見ても本来はライブをやるようなお店では無さそうで、普通のカフェ兼定食屋という感じだ。インナーブックによれば、そのお店にスタッフの一人が骨董品のようなアップライトピアノを持ってきて置いていたのだが、それを恐らく常連さんだった中島氏があるときポロポロンと弾いたことからこのライブは始まったのではないか、と思われる。

 あまり広くないお店のようなので、本当にファミリーコンサートのような感じで、気のあった仲間たちを呼んできては、常連さんとマンスリーライブを楽しんでいるのだろう。このアルバムは、「fragmentⅠ~Ⅴ」という5曲の中島ノブユキのピアノソロの合間に、そのマンスリーライブで競演してきたミュージシャン仲間との演奏を入れ、恐らく実際のコンサート形式のアルバムになっている。(演奏は、全てスタジオ録音ですが。)曲もかつてお店で演奏したものなのかもしれない。

 それらの音楽は、実に幅広いジャンルのものだが、5曲ある「fragment」は心の芯の部分にぴりぴり響く静かなピアノソロであり、その間に挟まれた他の曲も中島氏のピアノで締めているので、全体を取り巻く感覚には統一感があり、彼そのもののセンシティブな世界を全編から感じることができる。

 森俊之のボーカルと石井マサユキのギターをフィーチャーした「Thinking of You」では、シスタースレッジのパンチの利いたこの曲をしっとりとアレンジして聴かせ、バンドネオン奏者・北村聡と奏でるピアソラの「Oblivion」では、ピアノとバンドネオンだけで実に静謐な世界を紡ぎだす。さらに女性コーラスグループ・CANTUSとのオリジナル曲「Kyrie」では、意表をつくグレゴリアン・チャント風の荘厳な世界を作り上げている。

 その中で一段と耳を引くのが、ELT持田香織中島ノブユキのピアノ一本で歌う「Pocket」だ。こんなことを言っては何だけど、原曲よりもずっと心に響く演奏に仕上がっている。そしてアルバムの最後は、武田カオリのボーカルをフィーチャーした「What a Wonderful World」。5人の演奏になっているがドラムスがいない。小さなカフェでのミニ・ライブ想定なので、全編を通してドラムスが入っていないのだ。このことも全体を通じた静かで抑制された世界の大きな要素なのだろう。

  ☆ Link:Pocket / 持田香織

   (このアルバムでのアレンジではないですが、雰囲気出てます。)

  ☆ Link:What a Wonderful World/ 中島ノブユキ feat.武田カオリ

 このバリエーションやゆったり感。静かに響く感じが、カフェミュージックにはふさわしい気がするってことで、奈良町のカフェにつなげて終わりたいところだけど、思い出すと奈良町で入ったお店は、かなりな確率で音楽が流れていなかった気がする。確かに最近の小さなカフェでは音楽の無い静かな店が多い。お仕着せのBGMは流行らないのかもしれない。今や自分好みの音楽をどんな場所にでも連れて行けるのだから。

 そういうことを考えれば、カフェミュージックの定義は、もう既に、カフェに行くときに自ら忍ばせておきたい音楽、なんてことになっているのかも知れないな。それはそれで、ちょっと寂しい気もするけど。

 

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<関連アルバム>

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