Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

A HAPPY NEW YEAR

 もう三が日も過ぎて、いまさらお正月がらみってのもどうかと思うけど...子供の頃、お正月の朝は一年の内で最も特別な時間だった。とはいっても、いつも目覚めは随分遅かった気がする。前夜の大晦日は夜更かしをしても怒られない唯一の夜で、いつも目をこすりながらも、妹と二人、がんばって起きていたからだろう。

 その日ばかりは親父も普段着ない着物を着て、日頃仕舞い込んでいる小さなレコードプレーヤーを引っ張り出し、一枚のLPレコードをかけていた。流れていたのは宮城道夫の「春の海」や八橋検校の「六段」だったと思うが、その音楽の中で、おせち料理を前に新年の挨拶をし、お年玉をもらい、お屠蘇を公然と舐めさせてもらえる、というような、わくわくしながらも規律正しいお正月の行事が待っていた。

 だからお正月というと、こうした日本的な筝曲を思い浮かべる純日本人になるわけだけど、まあそれもどうかと思うので別の路線で考えてみると、これがなかなか無いんだよね。クリスマスソングはあんなにあるのに。まあ、お正月だから引っ張り出してくるってわけじゃないけど、そんな中でもこれなんかばっちりかな。松任谷由実の「A Happy New Year」。どうでしょう。

 この曲は学生時代、ひょんなことから関わっていた近くの短大のフォークソングサークルの女の子が「この曲演奏したいんです」と言って渡してくれたカセットテープで初めて聴いた。そのテープには、発売されたばかりの松任谷由実のアルバム 『昨晩お会いしましょう』 が全曲入っていて、件の曲は、B面の最後の曲だった。

 荒井由実時代には、レコードを購入して聴いていたユーミンの音楽も、当時は年2枚のペースでリリースという量産体制に入っていて、僕も何かのトリガーでもなければ買ったり聴いたりしなくなっていた。そんな中で聴いたこの「A Happy New Year」はとても新鮮に響いた。早速何度も聴いて、確かピアノ、キーボード、ギター、ベースくらいの編成で演奏できるように採譜し編曲したと記憶している。

 今聴くと、最近のユーミンの声とは大きく違うことがよくわかる。素直でストレートな歌唱法から湧き出る声はみずみずしく、楽曲も歌詞もすごくストレートでピュアだ。いい曲です。

 そんな感じで、松任谷由実もなかなかいいな、ってことで、その直後に友人の持っていたアルバム 『Surf & Snow』 も録音させてもらって結構聴いたかな。

 こちらのアルバムは、当時、同時期に松田聖子がカバーした「恋人がサンタクロース」がやたらと表に出た印象があって、それ以外の曲の印象は薄かったが、僕はトータルアルバムとして、とても優れていると思っていた。このあたりの感じが、後のユーミンのアルバムに対するスタンスになっていった気がする。

 このアルバムで、案外好きだったのが、もう既に亡くなられた俳優の岡田真澄さんとデュエットしている「恋人と来ないで」だ。なんとも緩やかでモアーっとしたリラックス感が大好きだったのだが、この曲、実はかつて荒井由実時代に、彼女がパイシスという男女のデュオグループのために書き下ろした曲だった。オリジナルのパイシス盤は雰囲気が全然違っていて、「もうちょっとためを利かせて、感じ出してほしい」、なんて言いたくなりそうだけど、これがまったく売れなかったようだ。まあ、作曲者本人が歌う方が感じが出ますね。って、この曲、真夏の曲だっけ。これは失礼しました~。

 

 さて、この2枚のアルバムをCDで購入したのはもっと後のことなんだけど、その6年後にその中の音楽たちがブリッとフィーチャーされた映画が登場した。原田知世主演の「私をスキーに連れてって」だ。なんとこの映画のソフトを僕は今や飾り物にしかならないレザーディスクで持っている。(処分するしかないのですが、まだできず、です...)

図1-130105

 レザーディスクは、学生時代によく行ったパブにも一体型の大きなプロジェクションがあったりして、当時映画や音楽の映像ソフトを手に入れて観たいときに観るってのは、ちょっとした夢だった。ちょうど結婚して少し経ったころ、ようやく手の届く価格のプレイヤーが出始めていて、満を持して購入したんだけど、その時初めて買った3本の映画ソフトの中に、この「私をスキーに連れてって」が入っていた。名作ばかりだとちょっと疲れるって感じもあったんだろうね。

 特に原田知世のファンってことも無かったし、何故この映画だったんだろう、とも思うんだけど、今思えばスキーに対してちょっとしたコンプレックスがあったのかもしれない。

 大学が九州の福岡だったこともあり、貧乏学生だった4年間、僕の生活の中には「スキー」の「ス」の字も現れなかった。就職して初めて、みんながスキー、スキーとやたらうるさいのに気付いたのだ。冬が近づくと社員寮の部屋では、黙々と屈伸運動を始める変なヤツまで出てくる。シーズンになると、それまでは死んだようにおとなしかったヤツが、毎週末、金曜の夜出発し、月曜日の朝スキー場帰りにそのまま出社、などという人間に豹変する。「週末に○○銀行の女の子たちとスキーに行くんだけど、一緒にどう?」などというお誘いもあったりして、ファッションの一部と化していた。

 当時の僕は、彼女と遠距離中だったので、そんな甘い誘いには目もくれないで、時間が取れればいそいそと福岡まで帰っていた。そういう感じで、結局はほとんどスキーとは無縁のままで、結婚して少し落ち着いたその頃、恐らくコンプレックスを感じるその映画を観てみたかったんだと思う。内容はまあ、「推して知るべし」だが、当時の世相とユーミンの音楽がマッチしていて、なかなか楽しめる映画だった。

 その中に、「A Happy New Year」が出てくる。それを観た時点では、学生時代から少し時間が経っていたので、この曲を懐かしく感じながら、暖かい気持ちで観ていた。こんな新年もいいな、なんて思いながらね。

 ちなみに、この時使っていたレザーディスクプレーヤーには、購入した後いろいろビックリさせられた。先ずはウィ~ンと唸りを上げて、いかにも高速に達しました、と回転し続けるモーターの音。大判が高速回転するのだからそういうものかもしれないけど。さらには少し長めの映画だと2枚組。しかも表裏があって、途中で裏返さなければならない。使ってみて初めて、これはちょっと無理かなって感じで、結局その3本のソフトしか買わず、後は当分の間CDプレイヤーとして使用し、そのうち動かなくなった。

 

 その後、彼女は「私をスキーに連れてって」とはついぞ言わず、僕たちはスキーとは無縁の生活を送ってきたなぁ...そんなことを思いながら部屋の片隅を見ると、僕の休眠中のチェロにえらそうにもたれかかる物体が...息子のスノーボードだ。 

図2-130105

 彼はスキーはやらないが、スノーボードには結構はまっている。僕たちの時代のようなファッション感覚というわけでもなく、純粋に楽しんでいるようで、こうしたウィンタースポーツも流行の域を脱して落ち着いてきたのかな、と感じる。しかし、なんて生意気なんだろう。僕もやっていなかったのに...とちらりと横目で見る。あ、うらやましいわけじゃ、ないんですけど、ね...

 

 

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昨晩お会いしましょう

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