Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

平成の終わりを迎えて

 今日で平成が終わる。僕はもちろん昭和生まれの昭和世代だと思っているが、よくよく考えると、生きてきた時間は今や平成の方が長くなっている。昭和が終わった日、僕は28歳だった。結婚3年目で子供はいなかった。就職して5年目。まだまだ何もわかっていない、青い時代だった。

 いわゆるバブル全盛の時期。世の中には華やかな雰囲気が蔓延していたが、僕たちの世代にとっては、結婚して一家を構えても、サラリーマンでいる限り、地価高騰のあおりで一生住む家すら持つことができないと思える、ある意味理不尽な世の中の流れに翻弄された時代だった。事実、都会で就職していたたくさんの同級生が、その後田舎にUターンした。どこか諦めを漂わせた彼らの当時の言動は、多少なりとも僕の気持ちを代弁していた。

 昭和から平成への変わり目は、昭和天皇崩御がトリガーだったので当然のごとく暗かった。自粛ムードの中、テレビからはCMや音楽が消え、「平成」の元号発表もしめやかに行われた。しばらくは服喪の雰囲気が続いたが、「平成」時代への期待は、少しずつ膨らんでいった。

 翌年には、僕たちの元にも待望の赤ちゃんがやってきた。双子の男の子で、生まれる前から大いに心配させられたが、何とか無事に生まれ、そこからは大変な子育てが始まった。

 その後のバブル崩壊、インターネットや携帯電話の普及、立て続けの大きな自然災害。確かに戦争は無く平和な時代だったが、それまでの価値観が大きく揺らぎ、変化した時代だった。

 僕自身の仕事も大きく変化していった。今の会社では、学生時代から専攻してきた音や音楽に関わる仕事を、希望通りさせてもらえていた。大変なことも多かったが、今考えると宝物のような日々だった。その仕事も事業撤退という憂き目に合い、入社20年で離れざるを得なくなる。偶然と必然の入り混じったような職種転換となったが、時代の苦悩を体現したような今の仕事も既に長く、今やそれなりにプロフェッショナルだ。

 平成と共に我が家に出現した子供達も、それぞれの人生を生き、今29歳。平成を迎えたときの僕の年齢を既に越えている。一人の息子は大学院を卒業後、就職で東京に行き、この時代の変わり目に合わせるように転職、ベンチャー立ち上げに参画するらしい。もう一人の息子は、最初の就職先を3年でやめ、数年前に大阪に戻ってきて再就職した。僕たちも大変心配したが、その後結婚し、昨年子供が生まれ、自宅も構えた。待望の女の子は、僕たちにとっては信じられないことに「孫」という存在なのだ。

 いいことばかりではない。この年代特有の様々な問題は、例外なく僕たちの上にも降り注ぐ。喜びや悲しみが何層にも積み重なって、僕たちの平成時代を形作っている。

 

 平成の時とは違って「令和」の入口はとても明るい。まるで大晦日、明日は元旦、そんな気分だ。紅白歌合戦おせち料理も無いけれど、お祝いムードの中での新時代の幕開けは、どこか晴れやかだ。

 そういう中で、僕たちにとっての「平成」を振り返っている。書いてしまえば簡単なことでも、しっかり振り返れば、ひとつひとつがなかなかドラマティック、いや、シネマティック、かな・・・・・・ということで、今日の一枚は、ザ・シネマティック・オーケストラの2007年のアルバム 『Ma Fleur(マ・フラー)』 でいくとしよう。

 今年12年ぶりのアルバム 『To Believe』 を出したばかりのザ・シネマティック・オーケストラ。僕も先日思い立って、日本盤の半額で手に入る直輸入盤をネットで注文したんだけど、実はまだ英国から送られてきていない。今日は12年前に発売された、前作の紹介だ。

 ザ・シネマティック・オーケストラは1999年に英国の音楽家ジェイソン・スウィンスコーが結成したグループで、ジャンルはエレクトロニカやニュージャズに属する。とは言え、電子音楽という感じでも無い。生音がしっかりフィーチャーされ、ゲストボーカルの入った歌ものも多く、一編の音楽がまさにシネマティックに迫ってくる独特な世界観を見せてくれる。

 そんな彼らのアルバム 『Ma Fleur』 は、「愛と喪失」をテーマに架空映画のサウンドトラックとして作られたアルバムで、どこまでも美しく、静けさに満ちた音楽が詰まったこの一枚は、僕の大好きなアルバムだ。特にボーカルとしてこのアルバムに参加している3人のアーティストが、統一された色合いの中にも個性的な輝きを放っていて、アルバム全体を豊かにしている。

 まずはカナダ出身のパトリック・ワトソン。1曲目の「To Build a Home」を含め、4曲にピアノ、ボーカルで参加している。女性の声に聞こえなくもない彼が表現する世界は、とてもセンシティブで、感傷的に響く。

 9曲目の「Breathe」でなんとも個性的なヴィンテージ・ヴォイスをゆったり聞かせてくれるのは、セントルイス出身のクラシカルソウルのレジェンド、フォンテラ・バスだ。録音当時67歳だった彼女は、その5年後に亡くなっている。

 11曲目「Time & Space」でこのアルバムの最後を飾っているのが、マンチェスターのトリップポップバンド、ラムのボーカルだったルー・ローズだ。その少女のような声は、彼女のファーストアルバムを聞いて以来大好きなのだが、このアルバムの中でもその核心的なメッセージの発信に一役買っている。

 11編の音楽が様々な趣向で組み上げられたアルバムの世界は、統一感を持って「愛と喪失」を描いている。インナーブックにはそれを表現する11枚の写真もあって、その音楽世界を視覚的にフォローする。ただただじっくり浸っていたい、そういう素晴らしいアルバムである。

 

 間もなく、令和の時代を迎える。最初にこの元号を見たときには、どうもピンと来なかったが、今はとてもしっくり来ている気がする。決して華やかではない。でも、ジワリと迫って、キリリと締まる。そんな感じかな。

 ゆっくりスタートしてもいい。僕たちにとっても、そして子供達、その先の世代にとっても、いい時代になって欲しい。『Ma Fleur(=私の花)』 の音楽を聴きながら、平成の終わりと令和の始まりに思いを馳せる一日である。

 

 

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