Jerrio’s Cafe ~ 気がつけば音楽が流れていた

 店主 Jerrio の四方山話と愛聴盤紹介。ジャンルの壁を越え、心に残った音楽について語ります。

今年のマイ・ベストあれこれ

 一日伸びたが、ようやく仕事も納め、休みに入った。あわただしい年末だが、ちょっと一年を振り返って、自分にとっての「今年の一番」をいくつか挙げてみたい。

 まず、今年一番心に残ったおいしかったもの(酒席以外)はと言うと、夏に柳川(福岡県)で食べた「若松屋」の鰻で決まりだ。柳川には、うちの奥さんの実家から車で一時間弱で行けるので、これまでも何度か訪れ名物の鰻も食べたことはあったが、あまり印象に残っていなかった。件の鰻を口にしたのは8月12日。お盆前の暑い盛りだった。朝が遅かったので、昼を少し過ぎた頃、にわかに思い立ち出発。炎天下の水郷めぐりは拷問に近いと思うが、やはり人はまばらだった。(それでも乗ってる人、いました!)

 北原白秋の生家裏にある駐車場に車を止め、そのまま生家を少しのぞいた後、川沿いの道に出る。水郷めぐりの発着所のあたりまで来ると鰻のいい香りが...見れば旅館のようなたたずまいの一角に「若松屋」の文字、その下に由緒正しそうな「まむし」の看板もかかっている。昼も随分過ぎているので、この感じだとまさか混んでないだろうな、と思い、中をのぞくと...なんとそこは食べる場所ではなく待合所。人がびっしり待っている。結局待つこと30分、2時を過ぎてようやくありつけた。

 僕はせいろ蒸しを頼んだのだが、一口目でその深い味に魅了された。鰻ってこんなにおいしかったの?みんなで顔を見合わせる。とにかく炭火の移り香とともに口の中いっぱいに拡がる鰻の滋養に富んだ旨味と、米粒ひとつひとつに染みわたっている「たれ」のふくよかな甘さに、最後まで圧倒された。この歳になるまで鰻のおいしさがわからなかったなんて、ごめんなさい!来年も食べに来るから許してちょうだい!というような気分だった。

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 次は、今年一番の風景。これはいろいろあるが、やはり夏に行った高知の桂浜かな。ご多分にもれず、NHKの「龍馬伝」を欠かさず見ていたので、熱いうちに桂浜を見ておきたかった。夏、愛媛の実家に帰ったとき、このために一日確保。かつては同じ四国内でも高知に行くには山越えが必須で、日帰りできるような場所ではなかったが、今は高速道路が整備され実家からでも片道3時間で行くことができる。便利になったものだ。天気はそれほど良くは無かったが、この暑い夏のこと、少し日が翳るくらいでちょうどよかった。「龍馬伝」の人気からすればもっと人であふれているかと思ったが、まだお盆までは少しあったので、それ程でもなく、坂本龍馬記念館も桂浜も、ストレス無く楽しめた。

 桂浜は、瀬戸内海で育った僕にとっては、恐ろしいくらいに荒々しく壮大だった。きれいに保たれた海岸の波打ち際に近寄り、パノラミックな視点で水平線をゆっくりと眺めれば、その先の遠い世界に思いを馳せた龍馬たちの高揚感が伝わってくるような気がする。まさしく人間のスケールに影響を及ぼすような海岸だった。

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 さて最後は、やはり今年一番の音楽で締めたい。とはいえ、既に色々紹介もしてきているし、今年買ったアルバムでもまだ十分聴けてないものも多いので、なかなか選ぶのは難しい。強いて挙げるとするならば、今年の春リリースされ、色々な意味で、参ったな~!と思わせてくれたDVD&CDセット、バーブラ・ストライザンドビレッジバンガードでのライブ盤 『One Night Only』 にしよう。

 バーブラ・ストライザンドは言わずと知れた米国ショービズ界の大スター。歌手としてスタートし、アカデミー賞主演女優にして、作曲家、映画プロデューサー、映画監督。オスカーを2回とり、グラミー賞は10回。恐らく米国で最も多才で、最も成功した女性だろう。そればかりではなく、民主党の熱烈な支援者としての顔も持ち、ビル・クリントンが大統領候補になったときは資金集めのコンサート等で、大きな影響力を発揮した。

 昨年、ダイアナ・クラールをプロデュースに迎え、ジャズのスタンダードナンバーを歌った「Love is the Answer」で久々に楽しませもらったが、僕にとってのバーブラは、なんと言っても学生時代に大ヒットした、アンディー・ギブ(ビージーズ)のプロデュースアルバム 『ギルティー』 での彼女だし、その頃名画座で何度も観た映画「追憶」の中での彼女だ。

 現在68歳の彼女が、ショービス界に入って50年目の節目に出した作品だ。しかもジャズの名門、ビレッジ・バンガードでのライブ盤である。もう何も考えず購入して、恭しく観る他はない。

 彼女はジャズの世界の人ではないし、こんなことを言っては申し訳ないが、飛びぬけて美人というわけでも、美声の持ち主というわけでも無いと思う。しかしこのライブを見ていただいたらわかるが、何の隠し立てもできないこの小さな空間で、ピアノトリオ+ギターのカルテット演奏にのせて、軽妙なトークを交えながらこれまでの思いのこもった曲を次々と歌う彼女の姿は、本当に魅力的で輝きに満ちている。彼女の持つ強さと弱さ、その説得力、たどってきたさまざまな道とそれに連なった人たちへの感謝の思いを、彼女の表情とともに、観客の姿の中に十二分に見ることができる。本当に充実したライブ盤だ。

 ビレッジ・バンガードはニューヨークにある小さなライブハウスだ。ライナーノーツを見ると、2009年9月26日、シート数は123席とのこと。そこに立錐の余地はない。そんな小さなライブハウスでの濃密な一夜である。一般の人はほとんどいないのでは、と思うが、この場所に居合わせられる喜びは如何ばかりだろう。

 客席には、最前列に「Sex and the City」のサラ・ジェシカ・パーカーが座っている。その上辺りには、バーブラの現在のご主人であるジェームス・ブローリンが愛情あふれる眼差しで見守っている。二コール・キッドマンのはしゃぐ姿も見える。クリントン元大統領も一観客として座っている。少しはなれたところには超多忙のヒラリー・クリントンと娘さんもいっしょだ。恐らく他にもたくさんの有名人がいるのではないだろうか。

 終盤、エバーグリーン(「スター誕生」愛のテーマ)の紹介では、まだ大統領でなかった頃のビル・クリントンエバーグリーンが好きだと言ったので、大統領になったら就任式で歌ってあげると約束して、それを実現させてくれて光栄だった、とエピソードを語っている。それをクリントン元大統領は客席で一観客として片肘をつき眺めている。

 それを見ながら、今頃になって、かつて感じたことがあるもやもやが一つ解けた気がした。当時クリントン大統領とヒラリー夫人との関係を見ながら、どこかで似たような雛形を見たことがあるな、と思っていた。そうか、僕はこの二人に、映画「追憶」の中の、レッドフォード演じるハベルとバーブラ演じるケイティーを見ていたのだ。確かクリントン夫妻も学生時代に知り合っている。政治の世界に入ってからも、様々な問題が発生するたびに男の弱さを見せる元大統領と、悩みながらも毅然と立ち回るヒラリー。そして彼女の政治への思いは尽きることなく、初の女性大統領を目指したその姿は、この追憶の二人のイメージと重なっていた。

 そんなことを思いながら観ていると、アンコールでやはり来ました。「追憶」のテーマ「The Way We Are」。バーブラのハミングの前奏は誰もが待ち望んだものだ。拍手と歓声からそれは伝わる。この音楽を聴きながら、最前列のサラ・ジェシカ・パーカーがぼろぼろ涙をこぼしている。これはたまりません。僕があの場にいたとして、目の前でこれを歌われたら...

 ということで、今年リリースした音楽作品での一番はこれで決まり。人生の機微を感じさせてくれる一枚だった。

 

 今年ももう直ぐ終わる。この歳になると一年は本当に短い。あまり先のことはほどほどにして、目の前のことをしっかりと見ていたい、とも思う。3ヶ月前に始めたこのブログも、飽きっぽい性格の割りにまだ続いている。よしよし、一歩ずつだ。

 ご訪問していただいた皆様。ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。では、良いお年を!

 

 

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